「二二拍手 巻之二」

第一話 出会いは突然に

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 翌朝。
 朝霧につつまれた通学路を幸せそうな顔をして自転車をこぐ人影がひとつ。にやけたツラでふふふ……と声をもらしたかとおもうと、ぷるぷると首をふって今度は神妙な顔をしてうーん、とうなる。
 すれちがう通行人は妙な顔をくりかえす彼を避けてとおしてくれた。
 昨日のことである。
 突然の告白に静まりかえる道場。
 日和も、みすずも、降ってわいたような話に一瞬思考がホワイトアウトした。
 聞き間違いかと師匠にたずねようとした途端、
「ふつつか者ですが、末永くお付き合いのほどを」
 三つ指をついた香月が、あろうことか頭を下げて日和に事実だと宣告する。
 ふたたびホワイトアウトする日和の思考。
 顔をあげた香月の美貌をみるなり、ぼっ! と顔を赤くする。
「は、ははぁー!!」
 まるで黄門様に印ろうをつきつけられた悪代官のごとく平伏する。
 あたまの中身はまだどこか遠くであった。
「待ってよ!!」
 かなきり声をあげたのは美倉みすず。
「どういうことですか!? 意味わかんない! なんでこれ!? その”総社”って、馬鹿じゃないの!?」
「まったくです。香月様、若いみそらで人生をどぶに捨てるなど」
 美鈴の声とは一転、あわれみの声をかけるあえか。
「彼には将来性のかけらも見受けられません」
「どうみたってつり合いとれてないでしょ! 映画の美女と野獣だってもっとマシなカオしてたもん!」
「もういちど考えなおしたほうがよいのではありませんか? 私からも再考をおねがいしようと考えているところで」
「そうよ! こんなエロ変態! カレシにしたって恥ずかしくて人前になんてだせないよ!」
「くっ……なんだ。この、よってたかってな罵詈雑言(ばりぞうごん)
 正気にかえった日和は顔をあげると、
「もうちょっとオブラートにつつめよ!」
 ちょっとは自覚があったらしい。
「黙ってなさいよ!」
「黙りなさい」
「はい」
 二人の剣幕におどされて小さくなる日和。
 何故これほどにみじめな思いをせにゃならんのだろう。
「絶対だめよ! ゆるさない! もっと考えてよ!」



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