「二二拍手 巻之二」

第一話 出会いは突然に

「よくなんかね−スヨ! こんな高慢(こうまん)ちきな女」
「ふん、だ! この単細胞」
「なんだとぅお!?」
 立ちあがった日和の手首がつかまれ、クルリと木の床に叩きつけられる。
「ぶべら」
 みにくい声をだす日和を、手を払いながらあえかが見下ろす。
「いい加減になさい」
「やった! あえかさん!」
「みすずさんも。しばらく外で頭を冷やしてきなさい」
 しゅんとしおれて、道場の玄関にむかうみすず。
「あなたもです」
「心配しないでください師匠。首がちょっと曲がっただけでしばらくは耐えれます」
「井戸の水で冷やしてきなさい」
 ガーンッ、と右に40度ほどかたむいたまま、日和が絶望のふちに沈みこむ。
「かまいません」
 立ち去りかけた二人がおどろいてふりかえる。

 グキッ

「あいてっ」
「お二方も”総社”とかかわられた者。無関係というわけではないでしょう」
「それは――」
 ちらりと自分の弟子たちをみる。
「彼らには、あまりかかわらせたくはないのです」
「一度見聞きし知ったことは、もはや知らぬは通らぬが道理。それに――みすず様」
「は、はい」
 呼びかけられて幾分、気おくれして返事をする。
「ご自分のお立場、ご自分の秘密。もはや過去へはもどれませぬ」
「……そんな」
 言葉をなくすみすずに、香月は優しく微笑みかける。
「ご安心くださいませ。われら四神四家がこの身を()してお守りいたします」
「そんなこと、してほしくない」
宿世(すくせ)の因果は人の身であがなうことなどできませぬ」
 そのときだけ、反論をゆるさない熱がこもる。(りん)とした言葉とは裏腹に、一抹(いちまつ)悲壮(ひそう)さすら感じさせる一言だった。
「わかりました。そこまで言われるのなら」
 居ずまいをただし、弟子たちをよびもどすと、自分のとなりに座らせる。
「゛総社゛よりの言付(ことづ)けをつたえます」
 ちらりと日和のほうをみてしばし逡巡(しゅんじゅん)をみせるあえか。
「なんスカ」
「いえ、やはり言ってよいものかと」



Copyright (C) 2014 にゃん翁 All rights reserved.