「二二拍手 巻之二」

第一話 出会いは突然に

「愚弟よりお話はうかがっておりました。正龍によくしていただき、姉であるわたくしからもお礼申しあげます」
 自然なしぐさで下げられた頭に、日和もあわてて習う。
 おおぅ、これが良家の子女というヤツか。
 顔をふせたまま、思う日和。
 なにからなにまで所作(しょさ)がちがう。
 頭をあげると、まだ起きてなかったのでこっちも頭を地につける。
 そういえば正龍も、妙に馬鹿丁寧なとこがあった。
 衣ずれの音を耳にして、日和も身をおこす。
「そいやぁ、東……正龍君って、いきなり転校しちゃったって聞いたんですけど、今どうしてるんス?」
 前の事件があった次の月曜、教室で聞いたのは衝撃的な知らせだった。この月代高校から、東正龍は別の高校への転校していったという。
 ろくに挨拶もせずいなくなったことを、日和は不思議におもっていた。
 香月は視線をおとし、それからあえかに目を向けた。
 目を伏せるあえか。
 みすずは首をかしげている。
「正龍は――あの子は、元気にしています」
 香月は感情のない声でこたえた。
「ああ、そっすよね。で、どこの学校に行ってるんス? 近くの学校じゃないみたいなんすけど」
「春日君」
 あえかが横から追求をとめた。
他人様(ひとさま)の家の内情を根ほり葉ほり聞くのは感心しません」
「ええー? でも、行ってる学校くらい」
「春日君!」
 厳しい声にしゅん、とする日和。
「……これから、大事な話をしなければなりません、二人とも外にでていなさい」
 とりつくろうように、あえかは日和とみすずをうながした。
「せっかく紹介してもらったのにそりゃないっすよ」
「……あなたは自分から名乗っただけでしょう」
「あ、あのっ、あたし美倉みすずっていいます!」
 自分だけ名乗っていないのをまずいと感じたのか、みすずが声をあげた。
「存じております」
「え? あ、そっか。やっぱ、あたしって有名?」
「自分でいわねーっての」
「なによー。そもそもあんたのフライングしたのがいけないんじゃない!」
 みにくい言い争いを始めた二人をあえかが叱りつける。
「仲がよろしいのですね」
 笑うでもなく、呆れるでもなく、ただ淡々と事実だけをのべたように目の前の少女は口にする。



Copyright (C) 2014 にゃん翁 All rights reserved.