「二霊二拍手! 巻之二」
第一話 出会いは突然に
 はね上がった足が華麗に回転し、日和の尻をしたたかに強撃する。 
「いたっ! なにしやがるこのアマ!」 
「あんたが馬鹿なこというからでしょ!」 
「馬鹿なこととはなにごとだ! 学術的なアレだぞ、大発見だぞ! オレはこのマナコでみた!」 
「どれだけ節穴なマナコよ! よく見なさい!」 
「ふっ、何度見ようと事実は変わらない」 
 鷹揚に戸ぐちへ戻り、再度のぞく。 
 ひろい空間に、二人が正座して向きあっている。 
 そのうちの一人は頭痛でもするように額に指をあて、もう片方は涼しげな顔をむけている。 
 ついさきほど、階段下で目撃した美貌の女子。 
「なんだ、焦ったぜ」 
 フッー、と息をつき、見間違いだったことに安堵する。 
「美人二人がならぶとまるで鏡のようだね」 
 頭に手をあてているのが日和の師匠で、このからすま神社で”真心錬気道”を伝える轟あえかである。武道着に着がえたその姿は清廉可憐で花鳥風月、季節にかかわらず見目麗しくもその実力は折り紙つきである。日和のほかにこの美倉みすずと、あとひとり、大沢木一郎という弟子をもつ。 
「あーあ、もうバレちゃったじゃない!」 
 ぷんぷん怒りながら、みすずが道場のなかへと入っていく。 
「だからなんでコソコソする必要があるんだよ」 
 日和もつづく。 
「失礼しまーす」 
 慇懃に頭をさげ、みすずは師匠のとなりにちょこんと座る。 
「失礼します!」 
 キリッ。とした男前の表情をよそおい、颯爽と師匠の横へならぶ日和。 
「”真心錬気道”の次期後継者春日日和一五歳! 今後ともヨロシク!」 
 握手を求めて差しだされた手は、無感動な目に見つめられて立ち往生した。 
「あ、えーと、なんか調子にのったみたいですいません」 
 予想以上の無反応ぶりに、日和は小さく座りなおした。 
「こちらは東家のご長女、香月さまです」 
 こほんと咳ばらいをして、あえかは彼らに説明する。 
「東家? あずまっていやぁ、正龍の?」 
「この地方で”東”とつく家はただ一つしかゆるされておりません」 
 静かな声。 
 全員が注目するなか、しとやかに座る長髪の美少女の唇からもれたものだ。 
 窓からさしこむ日差しのしたで、彼女の姿は透きとおってみえる。 
「東家は青龍を奉る四神四家が一角。東は東方をあらわす姓、ゆえに、われら以外にその名はありません」 
 あえかに負けずおとらぬ姿勢のよさである。行儀よく結ばれた手のひらは雪のように白い。 
 
 
 
 
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