「二二拍手 巻之二」

第一話 出会いは突然に

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「遅っそ〜い(!) なにやってたのよ」
 道着に着がえた美倉(みくら)みすずに言われて、春日日和(かすがのひより)は不敵な笑みをうかべる。
「5−0だった」
「はぁ?」
「オレにはバスケの才能がないということだ」
 ヤツはアレだな、かつてゴール下の鬼とおそれられた全国屈指の名プレイヤーだったにちがいない。
 階段下でくりひろげられた激闘は、後世まで語りつげられる接戦だった。
 観客(オーディエンス)さえいたなら。
「で、おまえこそなにやってんの?」
 道場の入りぐちで入ろうともせず、コソコソ中をうかがっている。
 後ろからみてたら、その挙動不審ぶりにおもわず職務質問したくなったくらいだ。
「ああ、アレか。家政婦のモノマネだな。オレも似たよーなことやるよ、うん」
「しないわよ(!) って、それまさかノゾキじゃないでしょーね」
「ノゾキ。HAHA、ちゃんちゃらおかしいぜ」
 言葉と反対にオドオドしはじめた日和に、みすずは死刑宣告を告げる。
「あえかさんに言っとこーっと」
「ぐふっ」
 ふきだした冷や汗がいっせいに引き、かわりに全身から血の気がぬけていく。
「なんて女だ。人の行動をチクるなんて、最低の行為だ!」
「声おおきい(!) 聞こえちゃうじゃない(!)」
「うっ……ッ、そ、そうだな、師匠にきこえたら一大事だ」
「それはきこえたほうがいいけどぉ」
 ジト目のみすずはそのまま、入りぐちのふちにはりついた。
「で、オレの質問は?」
 チョイチョイと手まねきされ、道場の中を指さされる。
「なんで小声なんだよ」
 かくいう日和も声のトーンをおとし、おなじように中をうかがう。
 目を疑った。
「馬鹿な――ッ!」
 ヨロヨロと数歩をさがり、愕然(がくぜん)とした表情で首をふる。
「オレはいま、世紀の大発見を目撃しちまった」
 ふるえるヒザが、立つことをあきらめて地面にくずおれる。
 日和のとつぜんの変化に、心配げな顔をするみすず。
「どうしたの?」
「大和撫子って分裂するのか!」
 心配そうな顔が、あきらかに不審人物を見やる顔にかわる。
「みろ! 師匠が二人に分裂した!」
「キック!!」



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