「二二拍手

エピローグ

「でも大丈夫っす。オレ、気にしません」
「気にする必要などありません。一生忘れなさい」
「夫婦に秘密の一つや二つあったほうが正常なんです!」
 あえかは殴った。
 日和がくずおれる。
「……誰のせいでこうなったと思っていますか」
 拳を握り固めて、あえかが日和を見下ろす。
「えっ、なんで? オレ、何もしてない!」
「そういえば貴方には、地獄の特訓メニューを予約してましたね」
 あえかは襟首を掴んだ。
「二時間ほど付き合いなさい」
「え! そうっすよね! 夜と言えば二人の時間――」
「もう一度滝の中にぶち込まれたいのですか?」
「またまた」
「滝に打たれるのをも修業の一つですわ」
 にこりと笑うあえか。
 日和は笑顔を一瞬で泣き顔に変えてみせた。
「いっちゃん助けて!」
 引きずられながら玄関のほうへと去っていく日和。
 居間には大沢木と美鈴が残される。
「……わたし、帰るね」
 美鈴は立ち上がった。
「……ああ、いや、待……その」
 歯切れの悪い言葉で、大沢木が惑う。
「なに?」
「あの、よ。おまえって、みすず、なのか?」
 大沢木は尋ねた。
 不思議そうな顔をする美鈴。
「うん。決まってるじゃない。あたしは南雲美鈴」
「いや、そうじゃなくてだな……ああ! 畜生!!」
 大沢木は髪の毛をくしゃくしゃとかきむしった。
「ありがとね」
 美鈴は声をかけた。
 大沢木が動きを止める。
「じゃ、また明日!!」
 と言って、美鈴は居間を出て行った。
 取り残される大沢木。
「…………」
 大沢木はフゥ、と息を吐いた。
「ま、いいか」
 立ち上がると、縁側に脱いでおいた靴を履いて道場へと向かう。



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