「二二拍手

エピローグ

「ていや!!」
 道場へ入ると、日和が宙を舞っていた。
 あえかは道着ではなく、普段着のままで鬼のような連続投げを日和相手に披露している。
「誰か――助け――」
「せいやァ!」
 ドスン。
 一本背負いが決まった。
 それは柔道の技じゃないか、と苦笑する。
「此処じゃったか」
 頭に包帯や湿布を貼った金剛が巨体を縮ませて戸をくぐってくる。
「早かったじゃねーか」
「夕飯を馳走になろうと思ったがの。どうやら暫くあとになりそうじゃのう」
 あえかにぶん回されている日和を見て、「よいしょ」と床に座り込む。ちゃっかりその脇に一升瓶を抱えている。
 左手にもったお猪口に清酒をつぐと、包帯を巻いた口に流し込む。
「くぅぅぅ!! 怪我の時はこれに限る」
「酒は百薬の長、だっけか」
「医者にかかるより効くわい」
 どこまで本気なのか分からないが、大沢木は笑った。
「なぁ、あんたはなんで、”総社”になったんだ?」
「む、興味があるか?」
「まぁな」
「オヌシにも資格はある。じゃが、長い人生、関わり合いにならぬ方がよいこともある」
 金剛は酒を汲む手を止め、日和を見た。
「……その年で人生を見極めるには、若すぎるわ」
 グビリ、と喉に流し込むのを、大沢木は無言で見つめた。
「まぁ、いいさ。俺は――」
「おっまたせー!!」
 大沢木は驚いて背後を振り返った。
 美倉みすずがいつものくるくる巻髪で玄関から登場する。
「あれ? なんで、帰ったんじゃ――」
「えー何言ってんのー? 今来たところだよー?」
 大沢木はちんぷんかんぷんになって頭を抱える。
 美鈴は口元に手を当て、にふ。と笑った。
 女は化けるという。
「お師匠様ー!!」
 美鈴が手を振ると、壁に放り投げた日和から目を離してあえかが微笑む。
「こんばんわ。みすずさん」
「今日も稽古をお願いします」
「ええ。分かりました」
「た、助かった……」
 ボロボロになった日和が、壁でクタ、と首を曲げる。
 みすずが駆けていく。
『真心錬気道』――それを極めるには、まだまだ長い年月が必要なのであった。

(完)



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