「二二拍手

エピローグ

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「それじゃ、あの女の人って、『天宇受売』様なんですか?」
 美鈴があえかに尋ねる。
「はい。神楽を踊るものなら誰もが知る芸能の神様です。――そして、『真心錬気道』の開祖とも云われています」
 自分の家へと帰ってきたあえかは、いくぶんくつろいだ様子で渇いた喉にコクリとお茶を流しこむ。
 ひどい火傷と怪我を負った金剛は、病院へ自らの足で赴いた。
 腕を折られたはずの大沢木は、夜が近づくなり元気を取り戻して今では平気であぐらを掻いていた。
 日和は帰るなりブラウスとロングパンツに着替えた師匠に、露骨な落胆の表情を浮かべている。
 その頬には、あえか作の紅葉の葉が大々的に咲いている。着替えを覗こうとした罰だった。
 反対側には美鈴作の傑作が腫れている。
「あの四匹の妙な生きモン何なんだよ?」
 大沢木はすっかり治った肩をぐるぐる回しながら、あえかに尋ねる。
「猫だかイタチだか、ずいぶんユニークな奴らだったが」
「昔捕まえた野良の物の怪です。術式で鎖を付けて、飼い慣らしていました」
「笛とか楽器持ってたぜ?」
「……聞かないでください。過去の過ちです」
 あえかはそう言って深く追求されるのを避けた。
「とにかく、わたしは今の自分を変えるつもりはありません。美鈴さんから頂いたこの鏡は今度こそ人の触れない場所に隠しておきます」
「あ」
 美鈴が口を開きかける。
「何でしょう?」
 不思議そうなあえか。
「いえ! その……何でもないです!」
 パタパタと手を振って、美鈴は下を向いた。
「それでは、これで事は解決しました。お帰りなさい」
「師匠」
 日和が口を開く。
「はい?」
 とあえか。
「なんでそんな大事なこと、黙ってたんですか?」
「大事なこと?」
「オレたちが入門テストした洞窟の中に、師匠の半身が封印されてるって事です」
「……あれはわたしじゃありませんと、貴方は今までの話を聞いていましたか?」
 あえかは問答無用の口ぶりで答える。



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