「二二拍手

エピローグ

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 あれは昔の話です。
 初めて神卸(かみおろし)を成功させたのは、わたしが13歳の頃。
 母さまは第三二代となる”舞姫”。その御技は歴代の巫女の中でも屈指の実力を持った『真心錬気道』の武芸者でした。
 母は朝に一人で舞うのが好きでした。朝日が昇る頃、誰もいない道場で、一人舞を踊る母の姿はとてもきれいで、まるで天女様のように映ったのを幼心に記憶しています。
 とても、美しかった。
 わたしは窓からそっと盗み見ては、そんな母の姿に見とれていたものです。
 いつしか見よう見まねで舞の型を覚え、それがあるとき完全な型で舞技を踊ってしまいました。
 そのとき舞っていたのが『天宇受売』の神卸。
 間違って神卸を行ってしまったわたしに、『天宇受売』が取憑いてしまい、次第にわたしはその影響を受けていきました。
 母は何とか『天宇受売』にお還り願おうと手を尽くしましたが、ことごとく失敗に終わり、代わりに神卸の舞技を仕込むことで自ら”神送り”させて祓おうと考えていたようです。
 しかしわたしは、自由奔放に、まるで女王様のように振る舞う様がとても楽しくて、『真心錬気道』に身を入れて覚えるようとはしませんでした。
 学生の頃は、それはもう、今思うと恥ずかしいくらいの横暴ぶりでした。
 ひどい親不孝もあったものです。
 高校一年生の春、母が亡くなりました。
 ショックを受けたわたしは、これではいけないと思いたち、母の教えと『真心錬気道』を本格的に極めるため、朝も夕も修業に打ち込みました。来る日も来る日も荒行に身をさらし、そしてようやく、自らの(うち)から”神送り”を為す術を手に入れたのです。
 そして、家に置いてあった鏡の中に『天宇受売』を封じることに成功したのです――




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