「二二拍手

第五話 ヤミヨミの神父

「すまぬ。ちょっと意識がもうろうとしていてな」
 覚えていない。
「美鈴さん」
「す、すいません。ぼんやりしてて」
「大沢木君」
「知るか」
「そうですか」
「あれ、師匠、一人忘れてますよ」
「仕方ありません。本当にそうであれば――うぁ!?」
 突然色っぽい声を上げる師匠。
 日和の目が輝く。
「師匠、大丈夫ですか!?」
 今の衣服はぼろぼろだ。ポロリだってあり得る!!
 あえかのもとへ駆けつけ「げぺ!」また踏まれて下敷きにされる。
「言った覚えはないねェ」
 高慢あえかが胸を張り、四匹の獣に向けて告げた。
「あ、畜生もう一歩だったのに」
 と言った畜生どもが落胆とともに肩を落とす。
「鏡はあるかえ?」
 日和に尋ねる。
 下敷きにされた日和は気づいた。
 ここから見上げると、下着がダイレクトに見えるのではないか。
「は、はい! すぐ捜すんで足をどけて」
 尻を蹴られてリュックのところまではじき飛ばされる。
「一秒だよ」
 今回もはなはだ時間制限は厳しい。
 必死に探し始めた日和をさておき、あえかは金剛の方を向いた。
「かばってやったんだ。礼くらいお言いよ」
「うむ。助かった」
 金剛は巨体を丸め、深々と礼を言った。
「なぁに。それほどでもないさね」
 まんざらでもないあえか。
「……あいつ、消えちまったねえ」
 跡形もなく、瓦礫の海となった旧校舎に目をむけ、フン、と鼻で息を吐く。
「ひょっとすると、この下に埋まってるかも知れないよ。捜して見ちゃどうだい?」
「無茶を言うな。この瓦礫をのけるのに数日。秘密裏に捜索などできはすまい」
「まったく、どいつもこいつも、やる前から諦めおる」
 あえかは機嫌が悪そうに呟いた。
「どいつもこいつも、独りよがりで勝手ばっかり。誰かのせいにすることに慣れてしまって、自分で何とかしようと動きもしない」
「あの」



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