「二二拍手

第五話 ヤミヨミの神父

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「日和や――日和や」
 あれ。じいちゃんが呼んでいる。
「ここはえーぞー」
 一面のお花畑に囲まれ、歯の抜けた口が笑う。
 じいちゃん、また入れ歯忘れたのか?
「ここには入れ歯なんていりゃーせん」
 あ、そっかー。喋れるなら別にいらないよねー。
「それより、ほれ。一つ食べてみい」
 差し出してくれた赤い木の実を日和は受け取った。
 これ何? サクランボ?
「甘くておいしいぞー」
 へー。甘いんだー。
「ぐっといけぐっと」
 おわっ! そんな押しつけないでよ!! オレにも心の準備が!!
「そんなのいりゃーせん」
 いるよ! 無茶苦茶いるよ! だってお腹下したらどうすんだよ!
「漏らしても大丈夫」
 何をだよ!
「いいから食え」
 いらん!
「孫のくせにじいちゃんに逆らうか!」
 昭和の人間とは価値観が違うんだよ! 平成生まれには基本的人権ってものがあるんだ!!
「知らんわ!!」
 いらんわ!!
「おのれ孫、反抗期か!?」
 赤子の頃からいつかは決着を付けなければならないと思っていた。
「若輩者が、ワシに勝てると思うてか!!」
 ふっ、年寄りの冷や水という事実を思い知らせてやる!
「勝負じゃ!!」
 望むところよ!
「ワシは十の頃に隣のお姉さんとつきあっていた」
 ……え?
「士官学校の頃は毎夜女を連れ込んではせっせと子作りに励んだものよ」
 …………え?
「戦争から還ってきた後、英雄と祭り上げられて手当たり次第に女子のいる家を強襲」
 …………。
「ときには未亡人ともやった」
 それは……時代を考えるとひどくないか?



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