「二二拍手

第五話 ヤミヨミの神父

 心臓が激しく脈打つ。
「――おまえたち!!」
 身の危険を感じたあえかが声をかけると、物の怪たちは演奏をやめて散った。
 輝く太陽に照らされた心臓の中に、黒い影が映し出される。心臓の内側から激しく明滅を繰り返す光。
 動こうとしたあえかを、手の中の臓腑を突き出して止める神父。
「何をする気じゃ!」
「春日」
「お、俺?」
 日和に脱ぎ捨てた服から聖書を取り出せ、と命令する。
 不安な気持ちに包まれながら、言うとおりにする。
「渡してはならぬ!」
「開けてみろ」
 日和は最初のページを開けてみた。
 真っ白だ。
 次のページもその次のページも、何も書かれてはいない。
 それはただのメモ用紙だった。
「信仰とは、そういうものだ」
 溝口は日和に向けて、まともな目で語りかけた。
「へ?」
 赤い口で笑う。
「立つ鳥跡を濁さず」
 己の心臓を自身の手で握りつぶす神父。
「”ヘクサ”の加護あれ」
 仕掛けられた爆弾が、旧校舎を跡形もなく吹き飛ばした。




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