「二二拍手

第五話 ヤミヨミの神父

「……罰当たりも良いところだな」
 意識を失っている大沢木を捨て、歩いて教典の元へ向かう。
 その手にとると、彼はページを開いた。
「神は云われた。黙示録。青い馬駆りし騎士よ。生あるものに死の病を」
 御言葉とともに、蒼い影が神父の側に滲み、次第に容貌を持って怖ろしい髑髏の鎧甲(よろいかぶと)を着た馬上の騎士が出現する。
「うわっ!! でたぞ幽霊!」
「聖書を読んだことがないか? これは、終末予言書の中に出てくる四番目の騎士だ」
 髑髏の眼窩は確実に日和たちを狙っている。
 神父は帽子を深くかぶると、「アーメン」と呟いた。
 蒼い騎士が首のない馬の手綱を引いた。
 鋭く尖った槍が冷気を纏い、神の仇を串刺しにするために駆けだした。

 しゃららん。

 鈴の音。
 祭り囃子の中で一層高く響いた。
 全員が一つの方向を見る。
 そこにあえかはいなかった。
「うふふ」
 蒼い騎士の槍先を素手で掴み、あえかが妖しく笑う。
「そぉれぃ!」
 大げさな身振りで拳を撃ちこむと、終末の騎士は低い怨嗟の声を出して胡散霧消した。
「なんだとっ!!」
 溝口が動揺を口にする。
「なんじゃ終わりか。わらわにはちと役不足よのう」
 淡い燐光に包まれたあえかは、不満げに声を出した。
「これではわざわざ我が君を降臨させた意味がない」
 神父を見る。
「雑魚相手にずいぶん大立ち回りをしとるよのぅ」
 豊かな尻を振りつつ、あえかは胸を反らせて歩いた。
 形の良い乳房が一歩ごとに服の切れ端からはみ出ようとする。
「こい! そこだ! もうちょいッ! ああ、もう惜しい!」
 日和の後頭部に美鈴の拳骨が炸裂した。
「……天照大神。日本(ひのもと)の国の最高神、ですか」
 神父は乱れた気を落ち着かせ、帽子を深くかぶりなおす。
「数多ある神の中の一柱に過ぎない。ただ唯一の我が神には敵わず」
 聖書をひらくと、御言葉を口にする。
「神の――」


――ピーヒャラピーヒャラドンドンドンチンチン。


 言葉は祭り囃子の音に紛れてさらわれる。



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