「二二拍手

第五話 ヤミヨミの神父

 神父は口調を溝口のものに変えると、舞を踊り始めたあえかに向けて地を駆った。
 その目には、彼女の足元にある聖書が映っている。
「小僧!!」
 しゃららん、と音を鳴らしながら、あえかが日和に呼び掛けた。
「は、はい!!」
 しゃきりとする日和。
「さっさと拾え! この黒い本を持って逃げるのじゃ!!」
 日和はあえかの足元に転がる聖書を見た。
 それをめがけて、迫ってくる黒い影も。
「む、むりっすーーーーー!!」
「やれねば殺す」
 日和の直感が囁いた。
 その言葉は真実であると。
「うおおぉぉぉぉぉ!! オレの来世に幸あれぇぇぇ!!」
 おもいっきり後ろ向きな発言とともに、タッチの差で本を拾い上げる日和。
「やった! オレはやれば出来る子!!」
「安心するのは早い」
 ピタリと背後に張り付いた神父が、彼の耳元で囁いた。
 隙だらけの足元へ片足を差し出す。
「うひぃぃい!」
 もんどり打って日和は転がった。
「ああっ!! 何という阿呆ゥ!!」
 几帳面に舞を踊りつつ、呆れた声を出すあえか。
 聖書は地面を転がり――大沢木が手に取る。
「こいつを持って逃げりゃいいのか」
 心の傷を負った大沢木は、美鈴への汚名挽回のチャンスをうかがっていたのだ。
 駆け出す大沢木。日和よりもはるかに早い。
 しかし――
「ガキの遊技のレベルだ」
 すぐに追いつかれた。
「ちぃ――ざけんな!!」
 大沢木が爪を振る。
 神父は身が切り刻まれるのも気にせず手を伸ばした。
 危ういところで方向転換する大沢木。
「日和!!」
 大沢木は立ち上がったばかりの日和に向けて聖書をぶん投げた。
「へっ?」
 バシン! と派手な音がして、その頬を分厚い紙の束がはたく。
「何やってんだひーちゃん!!」
「オレが悪いの?」
 涙にくれながら、黒い本を拾う日和。



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