「二二拍手

第五話 ヤミヨミの神父

/ 16 /



「わらわの敵となった愚かもの。どう嬲ってくれよう」
 あえかは二つの鈴を持ち、口元に手を当てて妖しく笑った。
「ば、馬鹿な――」
 目の前の現実を認めたくなかった。
「師匠は家庭的で大和撫子な日本女性の鑑のはずなのに!」
 服が破れていれば必死になって隠そうとする初々しい姿が今でも網膜の裏側に焼き付いて離れない。
 ※脳みその中で若干脚色されています。
「オレの幸せな家庭生活が音を立てて崩れていくぅ!!」
 日和は、地面に手をつき男泣きに涙を流した。
「残念ながら、それは一生来ないでしょう」
 別の意味で告げた神父の一言がとどめを刺す。
 風とともに彼の身体が風化する。
「そんなものを持ったとてなんだというのです?」
 日和を捨て置き、聖書の御言葉を唱えた。
「神」
 卑しい笑みを浮かべたイタチが開いたページの上に乗っている。
「――!!」
「貰うでぇ」
 言うやいなや、キセルで腕が叩かれた。思った以上に重い衝撃に、神父は痛みに耐えかねて聖書を取り落とす。
「はいキャッチ」
 下で待機していたガマガエルが、身体に似合わぬスピードであえかの元へと跳ねて去っていく。
「よくやったよ、おまえたち」
「そ、そりゃぁ、ワイ等嬢さんのしもべやさかいに」
 イタチが底意地悪そうな顔を出来るだけにこやかに変えてヘコヘコ愛想を振りまく。
「タマ」
「あいよ」
 化け猫が対の三本ひげの生えた口元に竹筒をくっつけると、高音の笛の音がピーヒャララと流れ始めた。
 大タヌキも負けじと太った腹を両手で打ち立て、重い太鼓の音を鳴らす。
「ガマ公」
「合点」
 喉を膨らませたガマガエルがひれの付いた手で叩くと、豊かな小太鼓の音が弾ける。
 イタチが当たり鉦を打ち付ける。
 あえかは神楽鈴をそれぞれの手に持ち、大きく「しゃらん」と鳴らした。
 祭り囃子でも始まるような音が鳴り始める。
「化け物どもの合唱コンクールですか。――葬送曲にならなければ良いですな」



Copyright (C) 2009 Sesyuu Fujta All rights reserved.