「二二拍手

第五話 ヤミヨミの神父

 ぶばっ、と赤い血が鼻から噴き出す。
「こ、これは――いけねぇ」
 慌てて目を逸らすが、火照った身体に玉の汗を浮かべ、柳眉を歪めて快楽に耐えるように悶え苦しむ姿に、ちらちらと思春期の衝動が抑えきれない。
 たったった、とその横に来た美鈴が転がっていた鏡の残骸を拾い上げると、鏡面のない円形の鈍器で大沢木の頭を後ろから叩いた。
「ごふっ、いてぇ!――み、美鈴――も、もとに」
「変態」
 グサッ、と大沢木が致命的なダメージを受けて地面に塞ぎ込む。
「ヌォォォォォ!!」
 もう一人。
 春日日和15歳。彼は思春期まっただ中だ。
「しっしょぉぉぉぉ!!」
 自分を取り戻した日和は、また自分を見失って、師匠の元へと駆けつけた。
「オレが、オレが正気に取り戻すキッッッスをッ!!」
 膨れあがったタラコ唇があえかに迫る。
 かっ! とあえかの目が見開いた。
「ぶぺっ!?」
 細く長い足が日和の背中を地に押し付ける。
「フフ……うふふ――ほォォォほほほほ!!」
 嬌声が響く。
「よーやく制してやったわ! あの女の強靱な意志を!!」
 口元に手を当て、切り裂かれた巫女服姿のあえかは、突如別人のように尊大な態度で日和を下に敷いて語った。
「おまえ」
「は、はい! なんでしょう?」
 いつものあえかと違う態度に、日和は踏んづけられたまま身動きとれない。
「鈴の用意をし」
「す、すず?」
「一秒だよ」
 と言って、足を放すと無様な尻を数Mほど蹴り上げる。
「あおう!!」と叫んで、日和は地面に突っ込んだ。
「一秒経ったよ! どれだけかかってんだい!!」
「そ、そんな無茶な」
 日和は急いで背負ったリュックの中から、心当たりがある「鈴」を探し始める。
「おまえたちも用意をし!」
 あえかは出てきた物の怪どもに命令した。四匹の妖怪はその声を聞くと、ぴしりと気ヲツケしてそれぞれの持ち物を取り出す。
 化け猫が笛を取り出す。
 ガマガエルが喉を膨らませる。
 大タヌキが腹を叩く準備をする。



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