「二二拍手

第五話 ヤミヨミの神父

 この野郎。
「オドレみたいな不幸そうな顔しとるやつは一生お嬢の奴隷じゃわい」
 げはげはげは。
「狭いところはもういやどすえ」
「ほんまに、こうしておてんとうさんの愛でるのを何百年待ったことか」
「封じられてまだ百年は経ってねえべ!」
「鏡の中は日にちの感覚があいまいやからなぁ」
「まだ眠いゲコ」
「…………」
 日和は両手で頭を挟み、空を見上げ。
「なんじゃこりゃーーーーーーーーーーーーー!!!」
 叫んだ。
「ああ、とうとう……」
 あえかはがくりを地面に手をつき、目の前の現実が消えてくれるように祈った。
 顔を上げると、魑魅妖怪のたぐいが自分を見ている。
 現実だった。
「なんや、嬢が色っぽい格好しとるやないけ」
「違いますえ。あれが流行のふぁっしょん、というやつどす」
「げへへ、オデはあれ、よいなぁ」
「冬眠はまだかゲロ」
「……なんですか、あれは」
 神父は日和を取り囲んで楽しそうに談笑している不浄な怪物を指さし、唯一正体を知るであろう人物に尋ねた。
「あれは真経津鏡ではありません」
 あえかは肩を落として答える。
「馬鹿な! 確かに此処にあると――」
「残念ながら。あれが三種の神器の正体にみえますか?」
 神父はまた視線を怪物どもに映した。
 目が合うと、挨拶してくる。
「まさか――ではやはり、伊勢にあるのが本物か!?」
 神父は歯ぎしりをしてあえかを見た。
「それも、レプリカでしょう」
 あえかは苦しそうに声を絞り出した。
「では、どこに!?」
「……真経津鏡は、ここにはありません。それは、たしか……ああっ!?」
 あえかは身をよじった。
 ぴくっ、と反応する人間が一人。
「鏡とは、人を映すもの。あれは、わたしが、封印した、わたし自身――ううっ」
 あえかは懸命に何かに抗おうと、汗を浮かべて身体をくねらせる。
「くっ、いつつ」
 神父の一撃で気を失っていた大沢木が目を覚ますと、目の前であえかが淫靡に悶えている。



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