「二二拍手

第五話 ヤミヨミの神父

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 ぺんぺん。
 鼻先を誰かが叩いている。
 どこか遠いお花畑で死んだじいちゃんと談笑していた日和は、それで目が覚めた。
 目ツキの悪いイタチがいる。
 日和が還ってきたのを見ると、ニィ、と底意地の悪そうな顔を浮かべた。
 ちょっと待った。動物に表情なんてあるのか?
「いけ好かん顔やのぉ」
 日和は驚いて飛び退いた。
「喋るイタチ!」
「失敬な! ワイは板吉(イタキチ)言いまんねん。おぼえときや」
 おでこを叩いていたキセルを口にくわえると、日和の頭の上を指さす。
「んで、そこで欠伸しとんのが大蛙のガマ公」
「ゲぇーコぅ」
 ガマガエルが、眠そうな顔で膨らんだ喉をへこませる。
「眩しいゲロ。もう朝ゲロ」
「朝ちゃいまんがな。昼ですがな」
 キセルをピョコピョコ振りながら、板吉がガマ公に語った。
「外の世界どすぇ。ずいぶん久しいワァ」
 なよなよした足取りで猫が歩いてきた(・・・・・)。二足歩行の化け猫(メス?)が、日和に向けて流し目を送る。
「こんち、ご機嫌宜しゅう。あちきは玉梓(たまあずさ)いいます。玉ネェ呼んどくれやす」
「あっ、これはどうも」
 日和は挨拶した。
「女難の相が出てるどすえ」
 玉ネェは日和にずばりの占いを言い当てた。
「ま、マジっすか?」
 その肩に、ぽん、と片手が置かれる。
 振り向いた日和は、己の肩に乗った毛むくじゃらの腕を見た。
 口元をヒクつかせ、その腕にそって主を見上げる。
「兄さん、嬢のコレでっか?」
 でへへへ、と人間の親父のような巨大タヌキが短い小指を器用に立てている。
「わかっとる。皆までゆうな。ワシが嬢を喜ばすテクニックを伝授したる」
「ま、マジっすか!?」
 タヌキに教えを乞う日和。
「うっそ」
 うぷ。
 タヌキが笑う。
「げへらげへら」
 ぽこぽことお腹を叩いて騒ぎまくる。



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