「二二拍手

第五話 ヤミヨミの神父

/ 13 /



「強えぇ…」
 日和はそら恐ろしげに目の前の黒い服の人を見た。
 これがあの溝口か? いつもぼーっとして、まともに生徒と喋ったことすらなかったのに!
「これでも一通り格闘技の経験は受けているのですよ」
 日和に向けて余裕に説明してみせる。
「我々はエージェントですから、失敗することは許されない」
「ぬぅぅぅ」
 どすん、と金剛が片膝をついた。ぷすぷすと、炎に巻かれた余韻が金色に身体を苛んでいる。ケロイド状に火傷した皮膚が巨躯の破戒僧の顔を凄絶なものへと変えていた。
「さてと、春日君」
「この野郎、相手になるぜ!」
 言葉と裏腹に、隠れ場所を必死になって捜している日和。
 旧校舎以外に目立ったものはない。
「しまった−! 万事休すかー!!」
「……さすがに貴方を”総社”の人間だとは判断しませんよ」
 苦笑を浮かべ、溝口は手をさしのべる。
「貴方には、こちら側に来て頂きたい」
「へ?」
 頭を抱えて悶えていた日和がきょとんとする。
「姫がお呼びです」
 溝口が身を引くと、鏡を持った美鈴がしずしずと歩いてきた。
「日和」
 目に涙を浮かべ、日和を一心に見つめる。
 どきん。
「どきん!?」
 日和は自分の胸に手を当て叫んだ。
「まさか、心臓に病が……」
 認めたくないがゆえの発言。
 美鈴はどこか夢うつつの眼差しで、日和の元へと一歩一歩進んできた。頬にはうっすらと赤みがさし、潤んだ瞳がただ彼だけを見ている。
 どきんどきん。
「ぐぉぉぉぉ!! だめだ! 駄目だぞオレ! 二兎を追う者は一兎をもえず! オレには、オレには師匠という未来のパートナーが……」
「日和」
 そばかす混じりの表情が妙に初々しい表情で近づいてくる。なぜか、委員長の顔がこれ以上ないほどに輝く清純可憐なアイドルの貴重な一瞬のように映る。
「ひぃぃぃ……心が! 心が折れるぅ!!」
「しっかりしなさい! 美鈴さんは操られているだけです!! 取り込まれてはいけません!」



Copyright (C) 2009 Sesyuu Fujta All rights reserved.