「二二拍手

第五話 ヤミヨミの神父

「そ、そんなこと言ったって師匠……」
 振り向いた日和の目の色が変わる。
 破けた巫女服からのぞくきめ細かな肌。裂かれた胸元から想定される豊かなふくらみ。紅の風穴を丸く縁取る尻から、ざっくりと縦に切り裂かれた袴には、張り詰めた太もものおみ足が露わになっている。
「こ、こら! こちらを見るんじゃありません!」
 赤い顔で必死に衣服の隙間を隠そうとする。
 プツン。
 日和の切れやすいところが切れた。
「フフフフフ……」
 フォォォ…、と大きく息を吸い込んだ彼の周りに、強力な妄執の念が噴き溜まる。この世にあるすべての邪念が彼へと集まっているかのようだ。
 赤く血走った目がギラリ!と光る。
「ごっつあんがおーーーーーーーーー!!」
 理性の吹き飛んだ獣があえかに向かって突進した。
 美鈴の目が点になる。
 あえかは裂かれた衣服をかばうのをやめ、一匹の獣と化した愛弟子に向けて身構えた。
 怪しい手つきの腕を弾き、空中で襟を掴むと、勢いを利用して空の彼方へ届けとばかりにぶん投げる。
「せいやァ!!」
 日和は豪快に宙を舞った。
 ごん。
 地面に落ちたときに石にぶつかる。
「きゅぅ」ばたんとその場に突っ伏す日和。
 その頭からきれいな赤い水がぴゅーっ、と噴き出し、地面を汚した。
 あえかはつまらないものでも投げ捨てたように、両手をぱんぱんとはたき落とす。
「ば」
 美鈴は肩を振わせながら、手に持っていた鏡を振り上げた。
「ばかああああああああああああああ!!!!」
 鏡は直球ストライクで日和めがけて飛んでいき、その頭で「パリーン!」と割れた。
「あ」
 神父が目を点にする。
 あえかは祓っていた手を止めて顔を蒼白にさせた。
 すべては日和のせいだった。




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