「二二拍手

第五話 ヤミヨミの神父

/ 12 /



 あえかと金剛が素早く目を交わした。
 神依りの札を取り出すと目の前にできた植物の壁に向けて放つ。
「我乞ひ願ふ。根堅州國の母神禊ぎし八の雷神に奉る。神鳴る裁きの黒き輪を」
 札はのたうつ植物へと張り付くと、巨大な炎に変わり、瞬く間に黒い炭へと燃やし尽くした。
 そこを錫杖を構えた金剛が走り抜け、念仏を唱えながら”不動明王金剛”の霊験を身に宿す。
 輝く金色の肉体が長尺の錫杖を棒きれのように軽々となぎ払った。
「むぅ!」
 神父がいない。
 コツコツ、と錫杖の先がノックされた。
 伸びきったその先に、薄笑いを浮かべた神父がいる。
「神は云われた。劫火で燃えよ、と」
 御言葉とともに、金剛の身体が深紅の炎に掴まれる。
「ぬおぉぉぉ!!」
 その状態でも、金剛は錫杖を振った。
 空へと舞い上がり、とんぼ返りして神父が着地する。
 突っ込んできたでくのぼう(・・・・・)の錫杖の先に、人差し指を当てて止める。
「神は云われた。罪人に八つ裂きの刑を」
 先からすさまじい速さで切り刻まれてゆく。
 金剛はやむなく錫杖を手放した。
「我乞ひ願ふ。高天原に居坐す神に呼び掛けむ。八尋白智鳥の御影天叢雲の御力を」
 あえかの投げた神札は輝ける白鳥の姿と鳴って、黒い神父の元へ向かった。
「南雲美鈴」
 神父が声をかける。
「…………」
 美鈴はぼうとした表情のまま、手の中にある御神体を掲げた。
 陽の光を反射し、鏡面が虹色に照り輝くと光で神父を覆った。
 白鳥はその光に吸い込まれ、数瞬のあと飛び出してきた同じ容貌が速さを変えず、あえかの元へと一直線に飛んだ。
「くっ――」
 あえかは数枚の神札を取り出し、宙にばらまく。
 その札を通るたび、白鳥が輝きを失くす。
 しかし、完全ではない。
 大蛇を斃したという日本武尊の力が巫女服とあえかを切り裂いた。
「師匠!」
 日和が叫ぶ。
 美鈴がかすかな反応を見せた。
「ちっ」



Copyright (C) 2009 Sesyuu Fujta All rights reserved.