「二二拍手

第五話 ヤミヨミの神父

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「出てきなさい!」
 あえかの凛とした声が響く。
「ここにいることは分かっています!」
「騒々しいですな」
 暗い旧校舎から出てきた溝口おどろは、無精ひげの生えた顎をボリボリと掻きながら陽の当たる場所へと出てきた。
「今日学校は休校です。部外者は立ち入り禁止ですよ」
「オヌシがヤミヨミの神父じゃな」
 日和と大沢木は驚いた目で金剛を見た。
「ふむ」
 溝口はちらりと日和に目をやり、「以前言いませんでしたかな? 私の睡眠の邪魔をするなと」
「もうお昼を回っています」
 あえかは律儀に注意する。
「そうですか、それはご丁寧に。……日の当たる時間というのが、嫌いなのですよ」
 髪を掻くとフケらしきものがぱらぱらこぼれた。
「風呂も三ヶ月間くらいは入っていない」
「きったねー!!」
 日和が声を上げると、キッ! とあえかと金剛に睨まれた。
「なんで?」
「あんたが”ヤミヨミの神父”だってんなら、証拠があるぜ?」
 大沢木は鋭い眼差しで担任教師をにらみ据えた。
「美鈴を出せよ」
 ふっ、と溝口が笑う。
「南雲美鈴が、どうかされましたか?」
「いい加減にしろ。痛い目にあいたきゃねえだろ?」
「教師に対する口ぶりとはおもえんな。仕置きが必要か」
 溝口は白衣のポケットに手を突っ込んだまま、ふらりと大沢木の方へ歩き出した。
 あえかと金剛が身構える。
「PTAから苦情が出なければいいのだが」
「心配するなよ。チクッたりしねえからよ」
「そうか」
 ぱちんっ、と溝口が指を鳴らした。
 南雲美鈴が旧校舎の中から出てくる。
「てめぇ、やっぱり……ッ!!」
「美鈴さんを操り、鏡を奪ったのは貴方ですね」
 あえかの言葉に、溝口は首を振って「なんのことやら」とふてぶてしく笑った。
「彼女は自らの意思でおこなったのだ」
「「美鈴!!」」



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