「二二拍手

第五話 ヤミヨミの神父

 あえかの言葉にも大沢木は反抗的な態度を崩さない。
「”舞姫”よ。占っては観たか?」
 金剛があえかに尋ねる。
「はい。亀占と、湯立てを。ですが……」
「答えは振るわぬか」
「”ヤミヨミの神父”は異教の信仰者のせいか、八百万への神頼みでは思うとおりにいきませんでした。すみません」
「いや、ご苦労。出来ることはやったか」
 沈痛な静けさが場を支配する。
「占うって、あの黒いオッサンを捜さなきゃ駄目なんすか?」
 日和の言葉に、金剛とあえかが顔を上げる。
「それはそうじゃ。奴こそが諸悪の根源、すべての元凶ゆえ――」
「美鈴が一緒じゃないんですか?」
「!」
「そうか!」
 金剛は膝を叩いた。
「でかしたぞ春日!」
 日和は出来ればあえかにほめて貰いたかった。
「それでは今一度、今度は美鈴さんの行方を占ってみます」
「うむ。それが駄目なら、もう手がない」
「なんだよ、美鈴――南雲を捜してたんじゃねえのかよ」
 大沢木は一人でむくれた。
「大沢木君、貴方も準備なさい!」
「師匠! オレは!」
「貴方は足手まといだからいいです」
 日和は勢い余ってごろごろと床を転がった。
「ちょ、た、確かにオレにゃたいした力もないすけど、せめて荷物持ちくらいは――」
「あの神父は手強いのです。何も力を身につけていない者が場にいればこちらが不利になる。これは、貴方のためでもあります」
「もう置いてけぼりはいやっす! オレ決めたんす! 美鈴を助けるって!」
「分からないなら力ずくでも」
 すっくと立ち上がったあえかに、日和はかささっ、と後ろ手に移動(フェードアウト)した。
「と、止めても無駄っすからね!」
 廊下の奥から大声で叫んだのでは説得力がない。
 あえかが拳をにぎった。
 彼女に二言はない。
「まぁ、待て」
 金剛は禿頭をつるりとなでて腕を組んだ。
「どうしても行きたいか、春日」
 廊下の奥で頷く春日。
「死ぬかもしれんぞ」



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