「二二拍手

第五話 ヤミヨミの神父

/ 9 /



「駄目じゃな」
 朝。
 金剛は帰ってくるなりそういって、居間に座り込んだ。
「”総社”のネットワークを使っても、”ヤミヨミの神父”とやらの居場所がつかめぬ」
 用意されていた酒瓶に口を付けると、ぐびぐびと一気に飲み干した。所在なげにお猪口とコップが並んでいる。
「ぷはー! もう一杯!!」
「春日君」
「はいっす師匠!」
 超一級のパシリと化した日和は、あえかの一言に台所の棚から”鬼ころし”を取り出し、今へと運んでくると金剛に渡した。
「うむ」
 愛おしそうに抱く蟒蛇(うわばみ)坊主。
「駄目でしたか……」
 あえかはひどく残念そうにため息ついた。
「そういや、いっちゃんはどこ行ったんすか? 朝起きてもいなかったんすけど」
 日和は洗濯ものが乾くまで、師からグレーのTシャツとジーンズを借り受けていた。日和が着るとぶかぶかで、サイズが合わないがこれこそ愛の証だ。
 実は金剛の私物である。
「俺ならここにいるぜ」
 境内から大沢木が戻ってくる。
「彼は一番に起きていましたわ」
「二度目の間違いを起こさねえ。それが俺の持論」
「間違い?」
 日和が尋ねると大沢木は、少しの間固まった。
「……朝は早起き。それが俺の持論」
「どこ行ってたんだ?」
「いや、ちょっと野暮用でよ」
 大沢木は実家に帰って、母の様子を見てきていた。母は隣町のキャバクラでホステスとして働いている。年齢は33歳。子を一人産んだとは思えない外見をしている。
 大沢木は殴られた頬を隠しながら歩いてきた。
 そういう仕事をしているくせに、息子の朝帰りには厳しい。
「で、そっちはどうだったんだよ?」
「駄目でした」
 あえかは首を振った。
「なんだよそりゃ。早くしねえと美鈴――南雲がヤバイだろうが」
「下手に動くわけには行かぬ。相手もこちらの動向を伺っているやも知れぬでな」
「ビビってて何もしねえってのか? ”総社”ってのは腑抜けの集まりか?」
「言い過ぎですよ。大沢木君」



Copyright (C) 2009 Sesyuu Fujta All rights reserved.