「二二拍手

第五話 ヤミヨミの神父

 あえかの一言に我知らず涙がこぼれた。
 なんだか師匠がものすごく冷たい。
「それより、御神体を美鈴さんが持って行ったというなら――」
「ああ、おそらく、あの神父の野郎に横取りされただろうぜ」
「いえ、横取りと言うよりは、彼の差し金でしょう。普通の人間が狙うような価値がある宝ではありません」
「骨董価値は、高いかもしれんぞ」
「いえ、それもありません」
「ふむ。嫌に詳しいのう」
「え? い、いやですわ和尚様。我が神社の御神体ですもの」
 あえかの目が泳ぐ。
「あ、操られた、とか」
 日和はおそるおそる発言する。
「可能性はありますね」
 あえかは日和を見下ろした。
「もしくは春日君がウソをついているか」
「そんなコトするわけないじゃないすか! 今まで師匠にお仕えしてきたこの春日日和、着替えを覗くことはあっても嘘はつかないっす!」
「……その発言の細かいところは後で制裁を科すとして」
「オレの馬鹿ー!!」
「鏡を取り戻すために、作戦を練る必要があります。一度、私の家で今後を相談しましょう」
「ふむ。そうじゃのう。今日はずいぶん身体を動かした」
 金剛はコキコキと肩を慣らし、「酒…」と呟き、出口へと向かった。
「春日君は洗濯とお風呂に入るのを忘れないように」
 スタスタと立ち去るあえかに向け、日和は熱い眼差しを向けた。
「師匠……なんていい人なんだ……!!」
「単に家が汚れるのが嫌だったんじゃないか?」
 大沢木の言葉を完全に無視し、日和は水(とその他)を含んで重たい学生服をえっちらおっちら引きずって、あえかの家へと向かった。




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