「二二拍手

第五話 ヤミヨミの神父

「まさか! 貴方が持ち出したのではないでしょうね!?」
 あえかは日和の胸元をぐいと持ち上げて尋ねた。
 その形相に、日和ちびる。
 濡れているのがせめてもの情けだった。
「ち、ちがうっす! つーか、オレの心配は……?」
「そんなものは後回しです!」
 般若と言うより悪鬼に近い顔で見下ろしてくる師匠から目を離し、大沢木に助けを求める。
「お()さん、そのくらいにしてやれよ。ひーちゃんがビビってチビってんじゃねえか」
 ばれていた。
 落ち込む日和。
「では誰です! 誰がこんなことを!」
「えっ! いや、それはちょっと」
「言いなさい」
「美鈴です」
 簡単に自白する。
「美鈴!?――南雲がここに来たのかひーちゃん!」
 大沢木にまで襟を掴まれる。
 何故か理不尽にからまれている気がするのに、二人の気迫に押されて反論出来ない。
「お、落ち着きません? 二人とも」
「何を暢気なッ!!」
「なんで美鈴を行かせたァ!!」
 日和は泣きたくなった。
「まぁ待ていオヌシら」
 金剛が巨体を生かして二人の間に入り込み、浮き上がっていた日和の身体を地に降ろす。
「金剛サン、オレには今、あんたが神様に見える」
「ふむ。宗旨替えするか?」
「……悪い、今の発言なしで」
 あえかに殴られた頬を押さえ、日和はぼそりと呟いた。
「止めようとしたんだよ。そしたらオレ、飛ばされて、滝壺の中に落ちて……」
「「滝壺へ!?」」
 あえかと大沢木はそろって声を上げた。
「あ、あの滝壺へ落ちたのですか!?」
「よく生きてたなひーちゃん!」
「まーなんつーか、運が良かったってカンジ? あはは」
 日和は笑いながら頭をかいた。
 というより、気づいたらこの森の中で眠っていたのだが。
 近くに川なんかなかった気がするのに。
「運でピンチを切り抜ける男、と呼んでくれぃ」
「夢でも見たのでしょう」



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