「二二拍手

第五話 ヤミヨミの神父

「神は云われた。清浄なる雨よ。恵みをもたらしたまえ」
 空がにわかに曇り、ぽつぽつと降り出した雨が数瞬後にはどしゃぶりのように降り注いだ。
 みるみる火災は鎮火する。
「フゥ」
 肩を起こすと、聖書を「ぱたん」と閉じる。
 ぶんっ、と振り下ろした美鈴の手には、何もなかった。
「あれっ! なんで――」
「南雲美鈴」
 神父は優しく装うことをやめた。
 その声音に、美鈴は肩を振わせて神父を見る。
「今、ワタシが行けば確実に春日日和にトドメをさすことになるだろう。それでもいいか」
 美鈴は恐怖の表情を浮かべ、必死に首を横に振った。
「宜しい。彼がもし天命に拾われる身なら、助かるだろう。おとなしく付いてくるがいい」
 焼け焦げた帽子を深くかぶり、神父は雨に濡れた背を向けると、からすま神社をあとにするためしっかりとした足取りで歩き出した。
 美鈴は涙に濡れた瞳で洞窟を振り返り、祈るような気持ちですぐ側にある祠に祈りを捧げた。
「それを拾え。おまえが持つんだ」
 声がかかると、美鈴は祈りをやめ、云われたとおりに鏡を拾った。一瞬だけ洞窟の奥に目を向け、涙を振りきって走り出す。
 降り注ぐ雨は、しばらくの間、止む気配を見せなかった。




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