「二二拍手

第五話 ヤミヨミの神父

 美鈴の泣いている顔が遠ざかっていく。
「ぐあ!」
 壁にぶつかり、今度はもろにダメージを喰らった。
「ぐ……い、いてぇ」
 ずるりと壁から滑り落ち、起き上がる。その目は真剣だった。
「のやろー。春日日和をナメンなー!!」
 4度目のチャレンジ。
「もうやめてっ!」
 キンッ、とはじかれた彼は、洞窟の方ではなく、滝壺のほうへと弾かれた。
「え」
 飛び跳ねてくる水しぶきが頬に当たる。急激に落ちていく浮遊感に体中から血の気が引いた。
 腕を伸ばす。
 ガッ、と崖の端に何とか腕を引っかけた。
「く、くそ」
「日和!」
 青ざめた美鈴が崖の端っこで四苦八苦している日和に近づき、手を伸ば――しかけて、慌てて引っ込めた。
 触れられない。
 助けられない。
「コンチクショー! ふんぬー!!」
 いくら頑張っても腹筋が足りない。
「待ってて! 今助けを呼んでくる!」
 そう言って、美鈴は鏡を持ったまま、暗闇の洞窟を駆け抜けた。コウモリが襲ってきてもそのすべてが弾かれて悲鳴を上げる。今の彼女は何者も寄せ付けない。受け入れられない。そういう術を、あいつにかけられたからだ。
 入口まで戻ると、その本人が出迎えた。
「よくやってくれました。美鈴さん」
 ヤミヨミの神父は微笑みを浮かべて祝福した。




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