「二二拍手

第五話 ヤミヨミの神父

 その前に日和が現われた。
 美鈴は驚いて鏡を落としそうになった。
「あっ! コラ!  それ落としたら師匠に怒られるだろうが!」
「ご、ごめん」
 素直に謝った美鈴は、思い出したように日和を見た。
「ど、どうしてここにいるの?」
「付けてきた」
「このストーカー男!」と怒られるかと思ったが、美鈴は「日和…」と呟いてぽろぽろと涙を長し始める。
 とんでもない不意打ちだった。
「な、なぜ泣く! つーか、それどこもってく気だ! 師匠にばれたら危険だぞ! 元に戻せ! 黙っててやるから!」
 美鈴は首を振った。
「なんでだ!」
「これ、取りに来たから」
 美鈴は簡潔に答えた。
「鏡なんて、今時100円ショップでも売ってるだろうが。それで我慢しろよ!」
「ダメ! これじゃないとダメなの!」
「だからそれはダメだって言ってるだろうが! 聞き分けのないヤツだな! そんなにビンボーならオレが100円ショップで買ってやるよ!」
「無理よ! わたしは――」
「いいからほら」
 と言って、日和は美鈴を掴もうとした。
 キン、と音がして、日和は宙を飛んでいた。
「あれ?」
 どしゃ、と地面にぶつかる直前で反射的に受け身をとる。
「いたた……あれ?」
 美鈴が遠くにいる。いつの間にか、洞窟の中にいた。汚れてしまった服を払い、首を傾げる。
「おっかしいなー」
 再び美鈴に駆け寄ると、その服を掴む。
 キン――どしゃ。
「いつつ……」
 日和は起き上がって、美鈴を見た。彼女は震えながら泣いている。
「何のマジック?」
 日和は尋ねた。
「……あいつに、おかしな術をかけられたの。誰も、あたしに触れることは出来ない」
「はぁ? なんだよそれ。ちょっと待ってろ」
 と言って、日和は猛ダッシュして美鈴の服を掴――
 キン――
「ぐおっ!」



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