「二二拍手

第五話 ヤミヨミの神父

 やがて、目的の場所へ辿り着く。
 小さな祠がある。あえかが毎日お供えに来ているのか、咲き誇る一輪の花と、饅頭が二個、お供え物として置かれていた。そして、燃える蝋燭が一本。
 その隣に、つるやツタで隠されるようにして、入門テストで使われる洞窟がある。
 美鈴は祠の前で手を合わせ、洞窟の中へと入っていった
「マジで?」
 日和はビビった。またあの洞窟に入らなきゃ駄目なの?
 暫く待ってみるが、出てくる様子がない。
 日和は決意した。
 中へと入る。
 洞窟は暗い。懐中電灯ぐらいもって来るべきだった、と後悔する。
 あっ。
 入口まで戻ると、燃えている蝋燭を燭台ごともってくる。無いよりはマシだ。
 おっかなびっくり進むと、相も変わらず吸血コウモリに血を吸われた。骸骨につまずく。蜘蛛の巣に引っかかった。暗くて行き先が分からない。オレは出口というより入り口に戻れるんだろうか。唯一の救いは、熊に出会わなかったことくらいだ。
 滝の音が聞こえる。
 良かった。ちゃんと道はあっていたみたいだ。日和は心底ほっとした。
 その音の方向へとゆっくり近付く。

 ゴオオオォォォォ――

 ものすごい量の水が落ちる音がはっきり耳に届いてくる。
 光が差してきた。
 洞窟を抜けた先は、水しぶきを上げて巨大な滝壺へと吸い込まれていく幾本もの水の流れに囲まれた場所だった。膨大な量の水が真っ逆さまにはるか高みから地の底へと流れおちていき、それぞれが一つの柱のように荘厳な太い柱を形成している。見上げると中天にさしかかった太陽が中央に輝き、それを支えるように水柱がそびえ立っているようにみえる。
 そこは、地図のどこにもない場所だ。この洞窟からだけ行ける場所。隠れた秘境。からすま神社が守る御神体を奉った場所。ここが、入門テストの終着点だった。
 その滝壺へ申し訳程度にせり出した崖の上に、御神体は祀られている。御神体は小さな鏡である。直径50センチほどのきれいに磨かれた鏡。何の変哲もなく、特別な意匠もなく、ただ、映す者を映すだけの機能的な鏡が鎮座している。
 その鏡の前に、美鈴がいた。
 ゆっくりと手を伸ばし、鏡を手に取る。「ゴトリ」と音がして、支えていた台から鏡が外れた。
 御神体は、少女の両手に収まる。美鈴には少し重そうだった。
 手に取ったあと、美鈴は迷うように辺りを見渡した。
 諦めたように息を吐くと、とぼとぼと帰路につく。
「なーにしてんだよ」



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