「二二拍手

第五話 ヤミヨミの神父

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「はっ!?」
 日和は目覚めた。
「ここはどこ? わたしは誰?」
 答えを返してくれるものは誰もいなかった。
 仕方なく、自分で確認をとる。
 彼は居間の布団に寝かされていた。
「おかしい。師匠の禊ぎ姿を覗こうとした以降記憶がない」
 かなり重要な場面が記憶からなくなっていた。
「なぜだ。暗闇に包まれたところしか思い出せん!!」
 不必要なところだけ覚えている。
「あえか様ー!! 師匠ー!! オレのマイスイートハートー! フォーリンLOVE!」
 突っ込みを入れてくる人影もない。
「どうしてしまったんだ。みんな一体どこに行っちまったんだ」
 日和は立ち上がると、自分がトランクス一丁で寝ていることに気づいた。
「とりあえず服を」
 裏手に回り、そこに落ちてある自分の学生服を一つ一つ拾いながら着替えていく。
「おかしい。やはりオレは大事な記憶を()くしている気がする」
 学生服がここに落ちていることを覚えていることが証拠だった。
 みんなして自分を置いてどこかへ行ってしまった。
 日和は寂しかった。
 いや。待てよ。と考える
「師匠の部屋を物色し放題じゃないか」
 逆転の発想だった。
「そうと決まれば――」
 二階の師匠の部屋へ向かおうとして、ふと、目の端を何かが引っかかった。
「美鈴?」
 あり得ないはずのものが見えた。
 裏手から見える境内に、南雲美鈴が立っている。
 そんな馬鹿な。
「オレは幻覚を見るほどに委員長のことを気にしていたというのか!?」
 だが委員長の幻影は消えることなく、境内を歩いて神社の奥へと入っていく。
 境内の奥には鎮守の杜があり、鬱蒼(うっそう)と茂った樹が乱立するちょっとした樹海と化している。方向音痴な日和はまず迷い込んだが最後、北も東も分からず迷ってしまうだろう。
 ついでに言うなら、そのさらに奥に、入門テストの洞窟がある。
 日和は付いて行ってみることにした。
 美鈴は鬱蒼として茂る樹海の中を、脇目もふらずに進んでいく。まるで目的の場所が分かっているかのようだ。
 日和はついて行きながら、飛んでくる羽虫や渦巻いている蚊柱を乗り越え、たまにヘビとの格闘も経験し、見失わないようにその後をつける。なぜか、声をかけることは出来なかった。



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