「二二拍手

第五話 ヤミヨミの神父

「今日こそもらったー!!」
 あえかは空になった桶を前につきだした。
 日和の目の前が真っ暗になる。
「みえん! 何もみえんぞー!!」
「はぁぁぁ――(ふん)ッ!」
 あえかの渾身の一撃。
 真っ直ぐ降下したチョップは出歯亀野郎の脳天にたたき込まれた。
 桶がぱかりと割れる。
 現われた顔が薄笑いを浮かべ、一歩進んだ。
 ぷしゅっ。
 今朝方の開いた傷口から再度赤い水が噴き出す。
「……我が人生に、悔いなし」
 おまえはそれでいいのか。
 拳を天に向けることもなく、日和はどうと地面に倒れた。ぴくぴくと断末魔の痙攣を繰り返しているが、誰も心配するものはいなかった。
「はぁ」
 あえかは水に濡れた髪をかきあげ、細い息を吐いた。こぼれ落ちる水滴が肢体を伝って地面へ落ちる。
「わたし、見所誤ったかも」
 気づいた時点で遅い愚痴であった。




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