「二二拍手

第五話 ヤミヨミの神父

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 金剛は出ていった。大沢木は脱力状態。
 神は囁いた。
 千載一遇のチャンスであると!
 禊というのは”穢れ”を祓う行為である。神様は”穢れ”を嫌う。穢れとは目に見えないものも含み、現世で犯した罪であるとか、死に関わるもの、勿論日常の垢や汚れ、”聖域”に不要な一切が含まれる。そのために、巫女や神主は神事を行う際には、禊や忌み篭りなどの方法で、身についた穢れを祓う。そして、無垢を顕わす白や朱の衣装を纏い、神への近づきに許しを請う。このため、正当な巫女は純潔を守る処女にしかその役目を果たせなかったとされる。
 あえかは井戸のそばで禊ぎを行っている。
 はやる心を抑え、家の裏側にある井戸へと近付く。細心の注意を払い、獲物へと忍び寄る姿はまさしくハンター。職種は下着泥棒か出歯亀野郎だ。
 バシャッ!
 ギラギラ輝く目つきでハァハァと鼻息荒く隠れた場所からこっそり覗く。
「ごっきゅん」
 襦袢一枚だけを身につけ、目をつぶって一心に神に祈りを捧げるあえかの姿がある。つるべ落としを引き上げ、桶へと移し替えて全身に水を浴びせる。
 バシャッ!
 見よ。薄衣一枚が透けるなまめかしい肢体。濡れた肌に張り付くエロティシズム!
 見よ。あのくびれ。ミロのビーナスだって勝てはすまい!
 見よ。ぬばたまに輝く漆黒の髪。跳ねた水さえ美しい!
 見よ。張り付いた布に浮かび上がる二つの双丘。なんと、下着すら着けていないのか!?
 見よ。それなら下もか!? もしかしてそうなのか師匠!? これは確かめねばならん非常事態だ!!
 見よ――もはやどうでもいい!!
 日和の中で一ミクロンくらいで繋がっていた理性のタガが勢いよく外れる。
「しぃぃぃしょおおおぉぉぉぉ!!」
「!」
 ギネス記録を越える早さで学生服を脱ぎ捨てた日和が、あえかに向かってすさまじい速度で突進していく。
「そんな格好、オトーサンは許しません!!」
 自称オトーサンこと春日日和はあえかに向けてこれ以上ないほどスケベな顔を向けていた。
 あえかは水の入った桶を掴み、日和に向けてぶちまけた。
 じゅー、といくらかの水蒸気があがる。
「この程度で今のこのオレをとめられるものかぁぁぁ!!」
 ふははははは! と笑いながら、不気味な光を宿した瞳が一直線にあえかの胸を目指す。



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