「二霊二拍手!」
第五話 ヤミヨミの神父
「戸籍の抹消とははじめから存在しなかったことにすることじゃ。もしまだ生きているとしたならば、全力で”抹殺”することになる。自家最大の汚点ゆえ」
「”抹殺”って――」
「東正龍は青龍家に殺される」
のんびり答えたその声に、日和は立ち上がった。
「な、何言ってんすか! あんた馬鹿じゃないのか!?」
「春日。オヌシも覚悟しておけ。”総社”の秘密を知れば――」
「和尚」
あえかは金剛に口を閉じさせ、春日に対して微笑んだ。
「貴方のお友達とはいえ、間違いを犯したものは正さねばならない。それは、偶発的でも、自発的でも、のちにまた同じ過ちを冒さぬものが出てこないように罰を与える。それは、古来より社会が行ってきた制裁の術です。分かりますね」
「悪い奴ややっちゃならないことをやったヤツが牢屋にぶち込まれるのは分かります。でも、殺すって!」
「法とは何のためにあるのでしょう」
あえかは静かに弟子を見つめた。
「そ、そりゃぁ、その、安全にオレや師匠が暮らしていくため――」
「違います」
あえかは首を振る。
「広義にみれば法は万民のために生み出されたもの。しかしそれは、一個人のためではありません。ムラという集団が生きていくために生み出された不文律。社会を一つの個体と見なし、この個体を冒す病原体を無害へと矯正する、もしくは排除するために作られたものが、法。それを守らねば、その社会が自壊する。その恐れから遵守すべき最低限のルールとして法は作られたのです」
あえかは熱いお茶を口に含んだ。すでに茶碗の中身は一粒残さずきれいに空になっている。
「個人を守る法ではなく、法を守るのが個人、ひいてはその集団に属す個人を守る盾となる。個人の命と同じように、社会もまた、等価の価値を持つもの。村八分や余所者を嫌う風習というのは、そこから必然的に生まれた自衛の手段です。東正龍という人物も、やってはならないことを冒してしまった。罪は償われなければなりません」
「何も死なせることないじゃないっすか!!」
あえかは困ったような表情を浮かべた。いくら正論を説いても、感情をむき出しにした子供に何かを分からせることなど無理なのかもしれない。
「……わかりました。正龍君のことは、わたしが何とかしましょう」
「”舞姫”」
金剛の鋭い目に、あえかは頷く。「分かっております」
「マジっすか! さっすが師匠! 頼りになるっす」
元通りに席に座り、朝食をがっつき始めた日和を一瞬だけ悲しみの瞳で見た後、あえかは視線を落とした。茶柱は立っていない。
「早まったやも、知れぬな」
独り言のようにぼそっ、と呟き、金剛がのそりと立ち上がった。
「ワシは正龍家との打ち合わせがあるでな。これにてご免」
そう言って、縁側から出ていく。
「金剛様、ではわたしが、彼の居場所を探っておきます」
「できるか?」
「はい。先日、呪主の手がかりを手に入れております」
あえかは、日和に向けて言った。
「禊の準備をします。早く食べ終わってください」
キラーン!
日和の目が光った。
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