「二二拍手

第五話 ヤミヨミの神父

 日和は正論を言った。
 ごくん、とそれなりな大きさのジャガイモを丸呑みする大沢木。
「……男には、見られちゃならねえ秘密ってのがある」
 すこし横顔が荒んだ。
「秘密?」
「誰にも言いませんよ。大沢木君」
 あえかは微笑みながら大沢木に声をかけた。
 びくっ、と大沢木は震え、頭を抱えて机に突っ伏す。
「な、なんだいっちゃん! 何があったんだ!? なァ!」
「……オレは”狂犬”。喧嘩百段。最強の(おとこ)を目指す男。そんなオレが唯一――」
 ぶつぶつと独り言を始める親友の様子に、日和は本気で心配する。
「いっちゃん、オレに教えてくれ! 力になるぜ!」
「うぉぉぉぉ!!」
 突如顔を上げた大沢木は、カクン、と首をうなだれてぽつりと呟いた。
「もうだめぽ」
「ぽ?」
 ぽうん、と大沢木の口から何か白いモノが出てくる。
 金剛は箸でそれを掴むと、空いたままの大沢木の口へと押し込んだ。
「最近のガキは打たれ弱いのう。秘密を他人に知られたくらいでなんじゃ」
 酒を呑みながら、また出てきた白い風船をさらに奥へと押し込む。
「仕方がありませんわ。彼はどうもプライドが高いようですし」
 苦笑しながらあえかは言った。
「何があったんすか師匠!?」
 日和は自分の親友の有様の原因を求めた。
「秘密です」
 あえかは人差し指を唇につけ、含み笑いをするように言った。
「いっちゃんが師匠と秘密を持った!」
 がーん! と落ち込む日和。
「お、オレだって、師匠の秘密くらい知ってるぞ! 赤くてスケスケの下着を持ってるんだ! しかもヒモ――」
「春日君。もう一度投げられたいですか?」
 あえかが拳をにぎると、日和は黙ってご飯を口に運ぶ。
「”舞姫”。昨日ワシが青龍家から聞いたことを伝えておこう」
 二人の邪魔が入らなくて都合がよいと考えた――かどうかわからないが、金剛が口を開く。
「はい」
「青龍家は、この件について全面的に協力することを約束した。なお東正龍という名は、青龍家の戸籍上から抹消されることとなった」
「では、やはり青龍家は関わりがなかったと」
「東が抹消されるって、どういうことっすか!」
 日和は箸を止め、金剛の方へ身を乗り出した。



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