「二二拍手

第五話 ヤミヨミの神父

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 食卓に並んでいるのは、ほかほかに炊けた白米。おいしそうな湯気を立てる具だくさんの味噌汁。日本人の食卓の友・梅干しがパックに納められ、たくあんの漬け物、肉じゃがという取り合わせだった。
「いただきます」
 あえかが手を合わせ、同じように全員が手を合わせる。
「どうぞ、お召し上がりください」
 日和に大沢木、金剛とあえかの四人がちゃぶ台を囲んで箸を運ぶ。
「うまいっす師匠!」
 日和は頭に包帯をしている。破けたパジャマは弁償することにして、今は学生服であった。
「お口にあったようでよかったですわ」
「とくにこの肉じゃがなんか最高っすよ! オレ、これでもう他の肉じゃがなんて見向きも出来ないです! 師匠の作ったモノじゃないと体が受け付けない!!」
「口の中にあるものを飲みこんでから喋ってくださいね」
 あえかは私服である。デニムのロングパンツにブルーのロングシャツという軽装に、白いエプロンを着けた格好で食卓に正座している。さすがに道場ではないので、日和や大沢木があぐらをかいていることを咎める気はない。
「うぃ〜」
 金剛は朝っぱらから酒を口にしている。つまみはたくあんの漬け物である。白いご飯もたまに食う。
 大沢木は――
「どうしたいっちゃん?」
 日和はまったく食事に手をつけていない大沢木に尋ねた。
「師匠の手料理だぜ? 今食っとかねえと一生後悔するぜ?」
 それは日和だけである。
「…………」
 取り分けられた漬け物の皿に目を落とし、さらにその漬け物すら見えていない様子の彼は、なぜか生気が抜けていた。
「師匠の手料理ホントに旨いぜ? 一口食ってみろよ」
 と言って、日和は肉じゃがのジャガイモを箸でつまんで大沢木の口元へ運んだ。
 ぽろりとこぼれる。
「あっ! 馬鹿もったいねえ!」
 畳に落ちたジャガイモを箸で突き刺し、大沢木の口に無理矢理詰め込む。
 だがしかし、まったく咀嚼が行われない。
「どうしたいっちゃん」
 日和は心配になって尋ねた。
「ふぃふぁん」
 ジャガイモを含んで話す。
「何言ってるかわかんねえ」



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