「二二拍手

第五話 ヤミヨミの神父

 なぜこの天使に翼が生えていないんだ?
 頭に輪っかもついていないじゃないか。
 これがひょっとして噂に聞く堕天使というヤツか?
 地上に落とされて翼と輪っかをなくしたのだ。
 それならオレはこの堕天使に操奪われてもかまやしない! つーか、人生すべて貴女への貢ぎ物に捧げます。
 いや、待て。
 冷静に考えよう。
 オレはまだ、生きているのか。
「あの、すいません。オレって生きていますか?」
「はい。そのようですね」
 僅かに困惑しながら答えるあえか様。
 む。
 そうじゃないか。
 その、この女性はあえか様だ。
 オレの師匠であり、『真心錬気道』の遣い手。容姿端麗頭脳明晰性格比較的おおらかぬばたまの髪輝く大和撫子。
 その彼女がオレを起こしに来て、ご飯ですよと言う。
 それはつまり、俺たちは夫婦。
「あえかあああああ!!!」
 すべてを理解したオレは衝動のままにパジャマを破り捨て、パンツ一丁で彼女の胸に飛び込んだ。
「溌ッ!」
 ぐるんと視界が回転し、頭から畳の上にぶつかる。
 ごん。
 受け身なんてとりようがない。
「目が覚めました?」
「…………」
 日和の意識はすでになかった。
「困りました。また寝てしまったんですね」
 困ったふりをしつつ、あえかは日和を元のように布団の中へと押し込んだ。
 頭の方からどくどくと赤い何かが枕を濡らしている。
「うーん……」
 隣がもぞりと起き上がる。
 長い髪が寝癖のせいでぴょんぴょん跳ね、布団にくるめたまま伸び上がる。
 今の騒動で目を覚ましたらしい。
 眠そうな目で欠伸をすると、枕を大事そうに抱え、寝ぼけまなこにあえかへ尋ねる。
「ママー、ご飯できたのー?」
 あえかは優しく微笑んだ。




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