「二二拍手

第四話 式神演舞

「でも、神父のヤツ、言葉ひとつで巨人を火でぼうぼうにしたり、ばらばらにしたりしてましたよ?」
「日和の身体を動かなくしたりな」
「は? そんなことあったっけ?」
 日和は怪訝な顔で大沢木に尋ねる。
「ふむ。それは恐ろしいな。それは言霊というより、すでに(しゅ)として完成されたひとつの呪法かも知れぬ」
「……言葉として届く範囲にあるものがすべて影響下となるというなら、これ以上に極力な呪詛はありません」
 押し黙った師匠と和尚に、大沢木と日和は互いに目をかわす。
「あの、勝てないんすか?」
 恐る恐る日和が口にする。
「ないのう」
 金剛は飄々と口に出す。
「うぉーーー!! どうすんすか一体!!」
「春日君。今は夜です。静かになさい」
「今はそんなこと言ってるときじゃないじゃないッすかー!! そうだ!」
 日和は一足飛びにとんだ。
「死ぬ前にファーストキスくらいッ!!」
「溌ッ!」
 あえかは襲ってきたクチビルに向けて拳をぶち込んだ。
「ぶふ」
「……いつもながら、お()さんにはスキがねえ」
「はい」
 にっこりと笑顔を見せるあえかが、大沢木には恐ろしく映る。
「そういや、もうひとつ言っておかなきゃならねえ事がある」
 痙攣している日和を後ろにずらし、あえかに近づく。なぜか拳を握り締めたあえかを無視し、真面目に尋ねた。
「昨日言ってた陰陽師ってのの正体がな、俺のクラスメイトだった。東正龍っていうスカしたクソヤロウだ」
「「東っ!」」
 あえかと金剛が同時に声を上げた。
 金剛は縁側を蹴りあげて居間へと入ってくると、鬼のような形相で大沢木の肩を掴む。
「東! 東正龍じゃと!? それは本当かッ!」
「あ、ああ、本当だ。最初にそいつが美鈴を襲ってきやがった」
 大きな手で痛いほど握りしめられ、大沢木はわずかに顔をしかめてうなづく。
「四神の東家ですわ」
 あえかが押し殺した声で呟く。
「青龍家が、”総社”を裏切ったというのか!」
 金剛は大沢木を手放すと、巨体を後退させ、ズン、と嘆くように座った。
「なんということだ。あの、青龍家が――」



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