「二二拍手

第四話 式神演舞

 美鈴は叫んだ。
「それは貴方次第ですよ」
 神父はどこまでも優しい声音で残酷な質問を投げかける。
 美鈴がうなづくのに、時間はかからなかった。
「はい。では――」
 ぱたん、と本が閉じられる。
「――ンってやつなんじゃねえのか!!」
「違いますよ」
 立ち直った日和に向け、神父は丁寧に答える。
「ですがもう、彼女は決めたようですから」
「馬鹿か! 返事も何もしてないだろうが!」
「ありがとう、春日くん」
 委員長は眼鏡をはずし、微笑んだ。
「それじゃ」
「なんじゃそりゃーーーーー!!」
 もんどりうってコケる日和。
「おまえ! そんなオッサンがいいのかよ!」
 美鈴は黙って神父の隣に立った。
「自由意志は尊重されるべきものです。――彼女の好意を、無駄にしないように」
 神父は背を向けると、歩き出した。美鈴もその後ろをついていく。
「おい美鈴!」
 立ち止まった美鈴は、精一杯の笑顔を日和に向ける。
「じゃぁね!」
 呆然とする日和。
 気づけば、二人の姿はなかった。いや、東すら連れて行かれちまった。
 暗闇が迫ってきている。
 正常な思考の戻ってきた日和は、まず倒れている大沢木をみた。
「あれ」
 大沢木は、限りなく物騒な顔であぐらをかき、タバコを吸っていた。
「いっちゃん」
「なんで、美鈴を連れて行かせた」
 大沢木は表情を変えないまま、日和を睨んだ。
「なんでって、あいつが――」
「お前は何もわかっちゃいない」
 大沢木は立ち上がると、日和をまずぶん殴った。
「……痛ってぇ!」
 地面にまともに倒れこんだ日和は、親友の豹変に怒った顔を向けた。
「何すんだよ!」
「行くぞ」
 大沢木は日和の文句を無視し、ポケットに手を突っ込んで歩き始めた。犬歯がうずく。
「どこへだよ」
「お()さんトコだ」
 短く告げると、また歩き出す。
 道端に倒れこんだ日和は、ぽとりと目の前に落ちた雫を見て、雨か、と思った。
 空を見上げる。
 ダークブルーに染まった空には雲ひとつなかった。
「…………」
 黙って立ち上がると、大沢木に追いつこうと走り出した。
 目から溢れ出す雨は、堤防を決壊させて留まることはなかった。




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