「二二拍手

第四話 式神演舞

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「――あああああ――あれ?」
 日和は目を開けると、五体満足な自分を見てフー、と息を吐いた。
「夢か」
「夢なわけないじゃない!」
 後ろから日和の頭をぽかぽかと叩く。
「いたっ! いたたっ! あれ? なんだこの感覚! デジャブか!?」
 美鈴は慌てて手を止めた。
 目の前で、東の呼び出した鬼が半身だけで咆哮をあげた。完全に式主の楔から解き放たれ、半死半生の怪我で自身すら見失っている。
「なんてこった! 夢の続きが続いている!!」
「夢じゃないよ! 助けて日和!」
 美鈴が日和の背後に隠れて震える。
「む、無理だ! だってオレ、いたってフツーな高校生だもん!」
「あえかさん! あえかさん呼んで!」
「電話かけても30分はかかるだろが!」
 混乱しても正当な答えを返し、日和は地面に倒れている大沢木を起こした。
「いっちゃん! 逃げるぞ!」
 大沢木は薄く眼を開け、わずかに口をあけた。
「やばい! いっちゃんがやばい! どうしよう? どうしたらいい!」
「聞かないでよ! あんた男でしょ! 何とかしなさい!」
「ムチャ言うな! オレ師匠じゃねえんだぞ!」
「やれやれ」
 声が聞こえると、黒い影のような姿が進み出てきた。
「失敗しましたか」
 神父服を着た男は、柔らかな表情で日和たちに優しく微笑みかけた。
「やばい! さらにやばいぞ! 見送る人まで出てきた! いよいよ死亡フラグ確定か!?」
「ははは」
 神父は日和の言葉に適当な笑いを返すと、「離れていてください」と言った。
「な、なんかいい人そうだぞ」
「そ、そうね」
 暴れまわる式鬼に無防備に近寄ると、聖書をパラリと開く。
「あのオッサン! あの化け物を説得する気だ!」
「あれに?」
 驚きの表情の二人を横目に、神父は帽子で顔を塞ぎ、言葉を口に出す。
「神は云われた。邪悪なるものよ。地獄の劫火で燃え尽きろ、と」
 言い終わったと同時に、式鬼の体が端から燃え上がった。瞬く間に全身が包まれる。化け物は苦しそうに身をよじりながら、自分をこんな目に合わせた人間を睨みつけ、道連れにしようと腕を伸ばす。



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