「二二拍手

第四話 式神演舞

 冷笑を浮べた東に、美鈴は両手を握ると、ゆっくりと膝をつき、両手を地面につけた。
「お願い、します」
「馬鹿か?」
 東は一ミリの感情も動かされず、”緑道”に始末を命じた。
()れ」
 緑の式鬼は主人の命令に忠実に従い、両手を合わせて万歳すると、二人まとめてぺしゃんこにしようとする。
「ちょっとタンマ!!」
 間の抜けたその声に、”緑道”の動きが止まる。
 式鬼が動きを止めるのは、主による呪の制御が中断したとき――つまり、気が動転した場合。
「ぬぉーーー!! 怖くない怖くない人類はみんなキョウダイだー!!」
 叫びながらやってきた人物を見ると、東は激しく動揺を露にした。
「春日日和! ここに参上! そして一秒でも早く立ち去りたい気分全開だ!」
 震える親指で自分を指差した彼はすでに逃走態勢に入っていた。
「ヒヨリ――なぜ、ここへ――」
 呆然と東が呟く。
「溝口に呼ばれたんだよ! ここで補習するって!!」
 日和以外には訳がわからない言い訳を叫びながら、彼は自分の身長をゆうに越す緑の巨人を見上げる。
 やばい。大沢木と委員長のピンチに思わず飛び出してきたが、どうしよう。そういえば師匠からも何度も注意されていた。よく考えて行動しなさい。
 そのとおりです師匠。僕は今、ものすごくその言葉の意味を実感しています。
「日和……くん」
 委員長に声をかけられるが、動くに動けなかった。
 後ろには深刻なダメージを負った大沢木。口は悪いがか弱い委員長。そして、友愛の非戦闘民族をポリシーとする月代高校1ーA若干15歳春日日和。
 勝てるパーティではなかった。
(死ぬ。このままでは死んでしまう)
 日和の中で死ぬ予定は、あえかと結婚した後が前提だった。すでに子供の名前まで考えているというのに!
 将来の計画が音を立てて崩れていく。
(どうしよう。いきなり謝るべきか? 土下座したらこの大きな生き物に轢きガエルにされそうな気がする)
「ヒヨリ――どいてくれないか」
 自分を取り戻した東は、静かな声音で語りかけた。
「そ、それはできかねる!」
 少々混乱気味に日和は答えた。
「どいてくれ。でないと、ぼくはキミまで手にかけないといけなくなる」
「あっはっはっは。まった冗談キツイよ?」
 日和は笑いながら東を見た。



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