「二二拍手

第四話 式神演舞

「美鈴は不細工じゃねえよ」
 学生服を着た男子生徒が、泣いている美鈴の前に立った。
「キミは?」
「クラスの不良に興味はねぇか?」
 大沢木はにぃ、と笑みを浮かべた。相手を威嚇するときに出る笑みだった。
「ああ、停学になっていた生徒にそんな名前の人間がいたね。何の用だい?」
「用なんざねえよ。ただ、ちょいと俺に殴られてくれればいい」
 拳を構える。
「二度と美鈴に口聞けねえくれぇにな」
「はっ! キミみたいな万年問題児が僕を? 笑わせてくれる」
「自分で立ち上がれもできねえ野郎に言われたくはねえな」
 東が表情を一変させる。
「……面白い」
「美鈴を泣かせた罪を償え」
 東は制服の袖から式符を取り出し、背後の壁に向かって投げつけた。北東の方角――札はぴたりと張り付き、正龍が呪言を唱える。
「鬼門封せし封を解く。牙持つ式鬼悪鬼夜行の形をとりて我が意に従え!」
 東が叫ぶと同時、貼り付けられた札がぴらりと剥がれ、どんよりと濁ったような四角い鬼門の口から、巨大な腕が飛び出した。腕は壁に手をつき、コンクリートの壁をへこませると、ずるりと額に角、口に牙の生えた異形の物ノ怪が姿を現す。
 鬼。
 御伽草子や平安絵巻などでしか見たことのないものが、現実に姿を現す。
「これが僕の技だ」
 陰陽師は勝利宣言をするように、大沢木と美鈴に告げた。




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