「二二拍手

第四話 式神演舞

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――授業、終わったんだ。
 美鈴は漠然と天井を見つめ、鳴り響くチャイムを聞いていた。
 泣いていたのを覚えている。
 いつの間に、ベッドで寝ていたんだろう。
 起き上がると、仕切りとなっていた白いカーテンが開き、優しい微笑みを浮かべた保健の教師が立っていた。
「具合、大丈夫?」
「あ、ありがとうございます」
 保健の田島先生は、髪をアップにして広く開いた顔に笑顔を浮かべた。
「ずいぶん眠っていたのね。何か食べる? ゼリーくらいならあるよ」
 はすっぱに声をかけてくる田島先生に美鈴は顔を赤くして断ろうとした。
 クゥ、と子犬の鳴き声がする。
 さらに顔を赤くした美鈴に、田島は備え付けの冷蔵庫からよく冷えたカップゼリーを取り出すと、スプーンを添えて出してくれた。
 ダイエットゼリーだった。
「あんまり無茶しちゃ駄目だよ」
 田島はカップゼリーを口にしている美鈴に向かって言った。
「む、無茶だなんて、そんな」
「保健のセンセイをなめるんじゃないの。前から一度言わなくちゃと思ってたけどね。大変なこと抱え込んでいるんだと思うけど、身体を壊しちゃ意味がないよ。ちゃんと自分の限界を見極めなさい」
 怒りながらも自分を心配してくれる保健教師に、美鈴は心から頷いた。
「はい」
「うんうんよしよし! 可愛いね。子供は素直が一番」
 田島は食べ終わった容器を美鈴から受け取った。
「ごめんなさい。先生」
「うん?」
「勝手に眠っちゃってて」
「サボりじゃないなら問題なし! 保健室は、そう言うところさ」
 田島に挨拶し、美鈴は廊下へ出た。
 下校している生徒とすれ違う。
 美鈴は、あっ。と気づいた。
 放課後、東に呼ばれていたことを思い出す。
「どうしよう。裏庭に行かなくちゃ」
 と、呟き、急いで裏庭へと向かう。
 校舎の影に雑草ばかりが生えただだっ広い場所がある。小さな公園程度のスペースには錆び付いた鉄棒と平均台があり、旧校舎が本舎だった昔は使われていたものの、整備された運動場が出来てからはほぼ行事で使われなくなって久しい場所だった。たまに校内の不良生徒や放課後に彼氏彼女持ちが逢い引きに使う隠れスポットとなっていた。



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