「二二拍手

第四話 式神演舞

「美鈴に何してやがる」
 大沢木は目の前に倒れた内山を赤い視界で見下した。怒りに頭が沸騰しそうだった。授業をサボってぶらついていたことは天の采配だった。美鈴のピンチを救うことが出来たのだから。
 それでも――
 たまたま自分が見かけたから良かったものの、あのまま事が進んでいたらと思うと、押さえつけていた怒りは急激に加熱して全身を支配した。
 タガが外れるのは簡単だった。
 内山を引きずり起こすと、思いっきりヘッドバットを喰らわせる。
 がくん、と首が力なく倒れた。
 その顔面に向けて、拳をぶつける。
 一発。
 二発。
 三発。
 四発。
 五発。
 六発。
 七発――
「もうやめて!」
 掴まれた腕を振り払う。
 八発。
 九発。
 一〇発。
 十一発。
 十二発。
「大沢木くん!」
 美鈴が抱きしめるように大沢木の拳を抱えた。
 赤い視界が元に戻る。
「南雲…」
「もう、大丈夫だから――」
 震える肩をみて、大沢木は叩き落とすように内山を廊下へ放り投げた。
「無事か?」
「大丈夫。大丈夫だから」
 美鈴は何度も同じ言葉を呟いた。まるで、大沢木ではなく、自分に言い聞かせるように。
「そうか。わかった」
 大沢木は美鈴の肩に優しく手を置いた。
 大げさに反応し、美鈴が距離をとる。
 怯えていた。
 くそ――と、大沢木は床で伸びている内山の顔を見た。殴りつけてピクピクと赤く充血していた。



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