「二二拍手

第四話 式神演舞

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 授業中の廊下には誰一人いなかった。
 教室から聞こえてくる各教科の担当教師の声が向こうから聞こえてくる。
 内山は黙って保健室までの廊下を黙々と進んでいる。あまり喋ったことはないが、こんなに寡黙なクラスメイトだったろうかと、美鈴は思った。
――ひょっとして、わたしだから、かな。
 嫌な考えが頭に浮かぶ。だが、それも当然のような気がした。
 外を見ると、吹き抜けていく風が梢を揺らしていた。グラウンドでは、授業で高飛びをしている生徒たちが並びながら声を上げている。
「あの、内山くん。もういいから」
 美鈴は前を歩くクラスメイトに声をかけた。
「わたし、一人でも保健室まで行ける。教室に戻って、いいよ」
 内山は何の反応も示さず、廊下を歩いて行く。
「あの」
「南雲」
「え?」
 内山が自分をみていた。だが、何かがおかしい。亡とした瞳で、どこか夢遊病者のように不自然な印象を受けた。
「な、なに?」
「南雲美鈴」
 内山はゆっくりと歩いてきた。
 窓際の壁にぶつかり、後ろに逃げ場はない。グラウンドから聞こえてくるかけ声が、ずっと遠くから響いてくるような気がした。
 内山がクマだらけの目に美鈴だけを映し、手を伸ばしてきた。
「いや!」
 美鈴はその手を払い、別方向へ逃げようとした。
 腕が掴まる。
「誰か――」
 内山の手が口を塞ぐ。
 胸をもまれた。
 汗ばんだ手が身体を這い回る。
 気持ちが悪い。美鈴は吐きそうになった。
 いやだ。
 いやだ。
 内山なんて嫌だ。
 日和。
 日和助けて!
 ふいに拘束が解けた。
 涙に濡れた視界に、学生服の男が怒気を噴き出させて立っていた。
 日和――?



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