「二二拍手

第四話 式神演舞

「僕は原文のとおりに訳したまでです」
 東は真面目に答えた。
「ふむ。まあいい。上出来だ東」
 溝口は「古事記はソースとして不向きだったか」と呟く。
「次、南雲。続きを訳してみろ」
「……はい」
 委員長は立ち上がると、少しふらついた。
「天照大神は尋ねた。なぜ皆は楽しそうなのか。天宇受売尊は答えた。貴方より尊い神が現われたからです。少しだけ戸を開けた天照大神は、用意された鏡に映った自分の姿に驚き、そこを天手力男神(あめのたぢからお)が天岩戸をこじあけ――」
 ガタッ、と美鈴の身体が崩れる。
 全員が委員長のほうをみた。
 机に寄りかかるようにして、浅い息を繰り返している。
「どうした−。南雲ー」
 溝口は平坦な声で委員長へ尋ねる。
「す、すみません。気分が、わるく、て」
「そうか。保健委員は誰だー?」
「げぇ」
 内山が声を上げた。
「内山ー。保健室まで南雲を連れて行けー」
「せ、せんせい、だいじょぶ、です」
「ウソをつけ。顔が真っ青だぞ。さっさと連れていけ」
「めんどくせーなー」と言いながら、内山が「オラ来いよ」と言って強引に委員長の手を引いた。
 ちらりと日和の方をみた美鈴は、爆睡している彼にあからさまな落胆を示すと、内山に引きずられるように教室の出口へ向かう。
「内山くん」
 呼び止められた内山は、声をかけてきた東に視線をやった。
「なんだよ」
「保健室の先生への連絡用紙。美鈴さんが欠席できるようにこの紙を渡しておいて」
「ふーん」そう言って、紙片を取り上げた内山に、東は薄く笑みを浮かべて言った。
「そう、しっかりみておいてくれ」
 二人は教室を出て行った。
「よーし、それでは授業を再開する。志村−。春日を起こせー」




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