「二霊二拍手!」
第四話 式神演舞
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「……このように、古文の言葉というのは一見難しそうな単語に見えても解釈すれば現代の国語と何も変わりはない。”とても・美しい”という感情を”いと・をかし”という表現で表しただけで、言葉としての価値はどちらも同じだ。朝日が昇ることをみて美しいと思う、その感受性は諸君等にも分かることと思う」
溝口おどろが担当教科の授業をしている。
日和は、あえかから貰ったペンダントを眺めつつ、にへら〜としまりのない顔でにやついていた。勿論、授業など上の空である。
ただの鉄の塊だというのに、あえかから手渡されたことでその価値は10億倍にも跳ね上がる。それに、懐から取り出したと言うことは、その直前まであえかの肌と直にふれあっていたということではなかろうか。直接、つまりはダイレクト。肌に触れていた品物を渡してくる=日和への愛の印なのであった。
人、これを妄想という。
ストーカーまで後一歩という見方もある。
…違った。
ペンダントから始まる恋もある。
(早く授業が終わらねーかな)
まだ三時限目だというのに、日和は気が早かった。
きっとあえか様はオレのことを待ち焦がれているに違いない。「わたしのプレゼント気に入ってくれたかしら」「師匠」当社比1.5倍のオレ。薔薇の花を咥えて登場。「ようやく授業が終わりました。これを」「まぁなんて素敵な花」「貴方のために校庭にある校長の花畑から無断で刈り取ってきました」「あっ!痛」「お気をつけなさい。きれいな薔薇には刺がある。手を見せて」「ああ、駄目よ」「男と女、一つ屋根の下。やましいことなど何もない」「わたしを抱いて!」「がっつりと!」
当初の目的を完全に忘れていた。
「春日ー。いい加減目を覚まして問題に答えろー」
溝口の声が教室に響くが、日和はすでに夢の中だった。
「減点3だ」
溝口は眼鏡をくぃと持ち上げ、夢の中にいる生徒に告げた。
「東ー。この古事記の一説を要約してみろ」
「はい」
車椅子の東は返事をすると、立ち上がれないため椅子に座ったままで、答える。
「素戔嗚尊を畏れ天岩戸に閉じ篭った天照大神により、高天原は暗闇に包まれ、魑魅魍魎と禍の跋扈する別世界なり果てた。思金神は一計を案じ、長鳴鳥の声と石凝姥尊の鏡を用意させた。天児屋尊の祝詞をBGMに、天宇受売尊が、乳房も露わに腰の紐が下がるほどに淫らに神楽を踊った。八百万の神々が笑い声を上げると、天照大神はにわかに外が気になり始めた」
クラスがざわめく。
「あー、うん、だいたいあってるな」
「ええ、そうでしょう」
「だが今は授業中だ。極端な表現は控えるように」
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