「二二拍手

第四話 式神演舞

「委員長さんよ! 降りてくれ!」
 校門が見える交差点で、日和は切羽詰まった様子で言ってきた。
「あ、そうか。校門だもんね」
「いや、違う! いや! 違わないんだが、それもある! さっさと降りろ!」
「わ、分かったわよ!」
 ズレた眼鏡を直しつつ、日和の自転車の籠に入れていた鞄を手に取る。
「あ、ありがと」
 素直に目をみることが出来ず、美鈴はそっぽを向いて言った。
 これでも精一杯に感謝の気持ちを示したつもりだった。
「かまやしねえよ!」
 日和は歯を見せて笑った。全然魅力的じゃない、と美鈴は否定した。
「あの、代わりに今度、勉強見てあげるから」
「んなもんイイって。オレは頭で身を立てるつもりねーし」
「駄目よ! このまま赤点ばっかりとってると、留年するじゃない!」
 美鈴は必死になって言った。
「留年なんざ怖くねーよ」
「駄目! 勉強しなさい! じゃないと――」
 自分と同じ学年にいられないじゃない。口からついてでようとした言葉を、美鈴は唇をかみしめて止めた。
 何を言おうとしたんだ。わたし。
「じゃな! さっさと教室行けよ、結構ぎりぎりだぜ?」
 日和は再び自転車を漕ぎ出すと、校門の中へと消えていった。
 美鈴はため息を吐くと、同じように校門へ向かう。
「おはよう、南雲さん」
 下を見て歩いていたせいか、目の前に来るまで気づかなかった。
 顔を上げると、車椅子に乗った東正龍が笑みを浮かべていた。
「あっ、東君、おはよう」
 少し、距離をとり、美鈴は朝の挨拶を返す。
「一緒に教室まで行こう」
「あ、はい」
 東に声をかけた生徒のついでの(・・・・)挨拶にそれでも律儀に返しながら、彼のスピードにあわせて歩く。東の車椅子は電動ではなく、自分の腕で車輪を回すものだった。月代高校はバリアフリーを学校紹介のパンフレットにまで載せてうたっているので、田舎の学校の割にエレベータなどと言う文明の力がある。
「あの、わたしこれで」
 エレベータのある場所まで見送った美鈴は、東に挨拶して徒歩で教室へ向かおうとした。
「乗りなよ。どうせ滅多に使われないしさ」
 エレベータの『開』ボタンを押したまま、東は閉じようとはしなかった。
 美鈴は心の中で嘆息し、一緒に乗り込む。
 扉が閉じて上へと向かう振動に揺れながら、小さな密室で東といることに、多少の息苦しさを感じる。きっと教室へ戻ると、またみんなから嫌な目で見られるのだろう。



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