「二二拍手

第四話 式神演舞

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「なんで委員長のおまえが、率先して校則違反なんか冒すんだよ」
 日和は重心がブレないように気をつけながら、みすずにむけて疑問をぶつけた。二人乗りは生徒手帳の禁止条項のひとつに上げられている。
 さらにはノー・ヘルメットである。
「た、たまには、わたしだって、校則ぐらい、破るもん」
 みすずらしくない小声の答えに、日和は「ふ〜ん」と適当に返事した。
「そうやって少女は不良へと転落していくのであった」
「か、勝手なこと言わないでよ!」
「よくある話だ」
 日和の家から月代高校までの自転車でなら一五分。割と近い距離にある。
 風を切って走るスピードは心地が良い。頼りない日和の背中すら一回り大きく見える。
 弓が丘公園を通り過ぎる。
 この前日和が助けてくれた場所だ、と美鈴は思った。あのときは無我夢中だったが、考えてみれば何の関わりないはずの日和が手を引っ張ってくれたおかげで、自分はこうして無事で居られる。頼りないと思っていた幼なじみは、思ったより男らしかった。
 少し顔が赤くなっただろうか、と思い、下を向く。
 別に好きとかそういうのじゃない。日和なんてタイプじゃないのだ。もっと男らしくて格好良くて、そう、お仕事の時にたまに見ることが出来る俳優さんとかがいいに決まってる。背も高くてハンサムで、話したこともないけれど、ああいう人が普通の人は好みなはずだ。
 日和の母親と美鈴の母親が昔なじみで、幼い頃は連れられてよく遊んでいた。ままごとで父親役をやって欲しいと言ったら、嫌だと突っぱねられた。どうやら家庭で恐ろしく父親の地位が低いため、自分が将来そうなることを恐れたらしい。そのときはまったくそんなことは知らないので、せっかくのままごとが出来ないと泣き出したら、渋々引き受けてくれた。
 昔から、この男は人に優しくできるタチだった。身体が弱かったせいで、寝ていることも多かったが、部屋で出来ることはいくらでもあった。手当たり次第に遊びを思いついては何でも実行し、今から思うと馬鹿らしいと思えることも、力一杯に楽しんだ。
 くすりと笑う。
「なんだよ」と尋ねてくる日和に、
「何でもない」と、美鈴は答えた。
――わたしがわたしだと分かっても、優しくしてくれるのかな。
 ひょっとして日和は自分を美倉みすずと知って助けたんじゃないだろうか。本当の自分ではなく、新進気鋭のアイドルとして助けたんじゃないだろうか。そう思うと、心の片隅にもやもやしたモノが生まれてきて、それを何かと気づく前に頭を振って否定する。
 日和は誰でも優しくするだろう。それが自分だけじゃなく、他の女の人にも――
 そんなことを考えた途端、日和が急ブレーキをかけて自転車を止めた。
 美鈴は反動で日和の背中にぶつかり、おでこをぶつけた。
「いった! 止めるなら言ってよ!」



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