「二二拍手

第四話 式神演舞

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 自転車に乗った日和は、爽快に朝の町内を駆け抜けていた。首には昨日師匠のプレゼントしてくれた大事なペンダントを巻き付けている。
 初めての師匠から貰ったプレゼントだ。死ぬまでなくすつもりはない。
 心が軽いと身体が軽い。ペダルを漕ぐスピードもいつもより早い。
 周りの景色がキラついてみえる。今の彼には、全世界が幸福に包まれ、モーツアルトの交響曲がバックグラウンドで流れていた。彼自身さわやかな微笑みを浮かべる好青年である。
 学校に着いたら志村に自慢しよう、と思った。
「春日くん!」
 そんな彼に声をかける者がいた。
「なんだい?」
 爽やかな笑顔で振り向く日和。
 ゴミ捨て場に直進した。
 がしゃん! と派手な音を立て、学生服が宙を飛ぶ。
 地につく直前、彼は「てぇいっ!」と受け身をとって怪我を回避する。
 堅いコンクリートではなく、ゴミ袋の山の上だった。
 ずむ、とめり込む日和。
「だ、大丈夫?」
 声をかけてきた人物が日和に近寄り、心配そうにのぞき込んだ。分厚い眼鏡とお下げ髪。
「やぁ! おはよう!」
 日和は爽やかに返事した。
「頭打ったの?」
 さらに心配してくる南雲美鈴に、日和は笑い声を上げて立つと、倒れた自転車に向かってゴミ捨て場から引き上げた。
 車輪は回る。大丈夫だ。
「何を言う。オレはいつもこんな感じさ!」
「そうね。馬鹿だし」
 爽やかな笑顔が引きつった。
「……何のようだ」
 元に戻る。
「えっ! 見かけたから、その、声をかけて……」
 予想外にしおらしく答えてくる委員長に、日和はびくっ、と震えた。
「……おまえ、変なモノに取憑かれたのか!?」
「失礼ね!」
 委員長はいつも通りに眼鏡をギラリと輝かし、日和を威嚇した。
「むぅ、なんだ、違うのか」
 そうすればあえか様に会いに行く理由が増えたというのに。と残念そうな日和。
 美鈴はその様子を見てなぜか慌てた様子をすると、また気味の悪いしおらしい態度で話してきた。



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